ああだから今夜だけは 君を抱いていたい
ああ明日の今頃は 僕は汽車の中
旅立つ僕の心を知っていたのか
遠く離れてしまえば 愛は終わるといった
もしも許されるなら 眠りについた君を
ポケットにつめこんで そのままつれ去りたい
別れの季節にぴったりだとピックアップされていたチューリップの『心の旅』は、ダウンロードして聴いてみるとまさに今の僕の心情そのものだった。
ボーカルの柔らかな歌声が切なく心を揺さぶる。
君の美しい顔を見つめながら聴いていると、不覚にも涙しそうになる。
これから、僕は東京へと旅立つ。
君をここに残していくのはとてつもなく辛いけれど、僕の目指すべき道は東京にあると決断したのだ。
でも、心配はいらない。
僕は決して君を忘れたりなんかしないし、もちろん君への愛は終わったりはしない。
だが、いざ別れの刻がきて思い知らされる。
なぜ、こんなに痛いのだろう。
くそう、こんなことなら妥協して地元の大学にすればよかった。
なぜ、東京なんかに行きたいと思ってしまったのか。
いや、やっぱり駄目だ!
君を残していくなんて出来ない。
「だから、駄目だって言ってるでしょ」
母さんが困ったように言う。
「だけど、やっぱりおいていくなんて出来ないよ」
僕はサリーを抱いたまま、言い張った。
「そんなこといったって、しょうがないじゃない」
母さんが時計を見ながらいらいらと言った。もう、駅に向かわなくてはならない時間だった。
「大丈夫、ばれないよ! ……あっ!」
僕の出した大きな声に驚いたのか、サリーが身を捩って抱いていた僕の腕をすり抜けた。
「ほら、サリーも東京なんかイヤだって。お父さん車で待ってるんだから、早くしなさい」
サリーは美しい着地を決めるや猫独特の気まぐれを発揮して全力で駆け出すと、別れを惜しむ暇もくれずにあっという間に僕の視界から消え去ってしまった。
くそぉ、住むことになったマンションがペット禁止でさえなければ……
ああだから今夜だけは 君を抱いていたい
ああ明日の今頃は 僕は汽車の中
にぎやかだった街も 今は声を静めて
なにをまっているのか なにをまっているのか
いつもいつの時でも 僕は忘れはしない
愛に終わりがあって 心の旅がはじまる
ああだから今夜だけは 君を抱いていたい
ああ明日の今頃は 僕は汽車の中
( 心の旅 作詩/作曲 財津和夫)