立花隆の書棚/中央公論新社
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[立花隆の書棚/¥3,000]
[清水義範(著)/中央公論新社 (2013/3/8)]

[650p/978-4120044373]

[ネコビル、インタビューでの誤解、思いこみ、臨死体験、IT、キリスト教、宇宙、言語、戸部、超ひも、くりこみ理論、初歩的なフランス語の間違い ]

[単行本][初図][124

立花隆を余り好きではない。なぜ好きでないかと言うと、
以前読んだ3冊の本が原因だ。
「ぼくはこんな本を読んできた

「ぼくの血となり肉となった五〇〇冊 そして血にも肉にもならなかった一〇〇冊」
「ぼくが読んだ面白い本・ダメな本 そしてぼくの大量読書術・驚異の速読術」

そもそもこれらの本を読んだのは、読書の達人と思われる人が
どんな読み方を、使い方をしているのかに興味を持ったからだ。
しかし期待は裏切られた。1冊読み、2冊読み、3冊読んでみても
最初の印象は変わらなかった。
立花隆って言う人は、言い方は悪いけど、自分が宇宙の
中心にでも思っているのではないだろうか。自分が参照した本、
勉強した本は、自分が本を書くためにだけ存在しているような
態度にはちょっと腹が立った。その後、立花隆の著作で
いろいろ問題があることが分かってきた。

ただ、今回はもう一度自分をリセットし
なるべく偏見を持たないように心がけ、
新鮮な気持ちで読んでみた。
結論を言うと、失望は変わらなかった。

例えば語学、本書の中で初歩的な間違えが気になる。
それも彼自身が自信を持っているフランス語だ。
彼が紹介している語学書、この著者は「あの」戸部氏だ。
立花氏は本作の中で、ラテン語、ギリシア語、ヘブライ語、
アラビア語を駆使して本をかなり読んだことが書いてある。
しかし、ある一つの言語を使えるレベルに保つには
かなりの時間を割いて日々メンテナンスを行なう必要がある。
立花氏にその形跡は見えない。多分どの言語も現在は
使い物にならないだろう。
さらに一つ。氏は本書である言語について数冊本を読んだので
自分でも語学書を書きたいと言っていた。そんなもんぢゃないだろう。

また本書で気になったのは立花氏の仕事のスタイルだ。
彼の仕事のやり方はある特定のトピックについて
徹底的に資料を読みまくり、めぼしい人にインタビューをする。
ただ、興味のあるトピックスがよく変わるため、なんというか
焼畑農業のような資料の使い方だ。後で資料を見直すことも
余りないのだろう。素粒子理論に関する最先端の資料が
揃っていると書いてある箇所があった。うーん。
たとえ最先端だったとしても、それに関する本を彼が
書いた時点でだろう。それからきちんとメンテナンス
しなければ資料の陳腐かも早いぞ。

本書のトピックでとりわけ立花氏が時間を割いて
紹介しているのは、哲学、宗教学、宇宙、そして臨死体験だ。
逆にきちんとした数学の裏付けが必要な繰り込み理論や
超ひも理論に対してはろくな説明がなく、あまり理解していない
ことが分かる。どうも自分で理解していない事象があると、
「前提知識のない人にどれだけ説明したらいいか分からない」
とか、逃げの台詞を山ほど書いている。宇宙については
背景の数学を知らなくてもイメージで語れるので
雄弁さに拍車がかかる。ただ単に知識を得るためなら
パワーに任せて資料を読みあさってモノにすることは可能だろう。
しかし自然科学はそうはいかない。物理について言うなら、
じっくり時間をかけて式のデリベーションを追いかける
ことで徐々にイメージを膨らませていくようなことが必要だ。
背景知識のない立花氏に多読でそのレベルに
達するのは不可能だ。

また、氏は大学生の自然科学的能力の低さを嘆く。
ただ、その立ち位置は自分が自然科学を既に
身につけた側の立場だ。ちがうだろうそれは。

こういろいろと粗が見えてくると、
氏が語るワイン、音楽、絵画に対する蘊蓄も
ウソっぽく見えてくる。

うーん。最後にもう一つ。
彼は著作の中で
「フィクションは読まない。つまらないから」
と言っていた。傲慢な発言だと思うぞ。