おじさんの思いで シリーズ第2弾!
一話目は“キノコおじさんの思いで”を見てね。
あれは、東日本大震災の2-3年後、2014年ころだったと思う。
毎週おじさんが通っていたテニススクールに、おじさんより2回りおじさんなおっさんがいたんだ。(以下おっさんと呼ぶことにするよ)
そのおっさんは、明るく社交的で、周囲の人望も厚いおっさんだった。
そのおっさんの出身は詳しくは忘れてしまったけど、福島県の沿岸の町。
福島県の沿岸の町といえば、そう、あの忌々しい爆発のあった町の近くで、相当汚染されたはずの地域。
おっさんはたまに里帰りをするらしく、よくふるさとの話をしていた。
おっさん 「いやー先日、ふるさとで開いた同窓会、楽しかったなー。」
私 「え、おっさんのふるさと、もう人が住んでも大丈夫なんですか?」
おっさん 「逃げてしまった人もいるけど、住んでいる人も多いよ。風評被害って恐ろしいよねー。」
私 「そうですか。放射能はもう下がったのですね。」
おっさん 「ところどころ高いところもあるけど、人が住むようなところは平気だよ。」
私 「でも、食べるものは注意した方がいいですよ。」
おっさん 「そういう人もいるけど、神経質になりすぎるのもねー。」
そんな会話をしていた数週間後。おっさんがテニススクールに、白い発砲スチロールの保冷箱を持ってやってきた。
中に入っていたのは、まるまる太った、それは、それはおいしそうなハマチ。
おっさん 「先日、里帰りしたとき漁師さんにもらったんだ。こんな型のいい奴がたくさん獲れるのだけれど、出荷できないんだってさ。よかったら持ってく?」
ぷりぷりしていてあまりに美味そうだったので一匹もらって帰ることに。
家に帰ってとりあえず、3枚に卸しては見たものの、
子供には食べさせられないし、これ全部一人では食べられないなー。
そう思いながら、一切れだけ刺身醤油でつまみ食い。
「うん。うまい!けどあまりにも新鮮すぎて、歯ごたえがいまいちプリプリしすぎるかなー」
考えた結果、半分を役所でやっていた放射能検査で調べてもらうことに。
残りはラップして冷蔵庫に。
10日ぐらいして検査結果が出た。
結果は、放射能測定可能下限以下。つまり放射能は検出されませんでした。
「おっさんの言う通り考えすぎかー」
そう思って、冷蔵庫の半分を取り出すと、あんなにプリプリしていたハマチちゃんは既にグッタリ、ぐにょぐにょした感じ。
結局。 無理して食べることもないかー。
・・・と思って捨ててしまいましたとさ。
この思い出は、それでおしまい。
その後スクールを辞めてしまった私は、おっさんとは疎遠になってしまったけど、数年前、70過ぎでこのおっさんも帰らぬ人になってしまったようだ。
死因は心筋梗塞。
どうも、私の周りにいる 故郷と自然を愛するおじさんは早死にするらしい。