食料生産に欠かせない肥料の歴史は
人類が発展する上で欠かせないモノだ
何せ肥料の開発が人口の増加を助け
生活に余裕を生み
食料生産以外の事に注視出来るリソースを使ったからだ
産業革命も食料が乏しかったら起きてないのだ
肥料にもいろいろあり
家畜や人の排泄物を発酵させたものや
森林資源の土壌を活用したもの
ハーパーボッシュ法等を使ったもの
天然資源を使ったものなど様々だ
人類の人口が増える時には
森林資源が失われる
それは東洋も西洋も同じだ
燃料や建材としての木材だけでなく
その土壌も森林資源だ
人類は最古の文明とされるメソポタミア文明から5000年かけても「土」を一から作ることは出来ない
土はただ岩石や鉱物が粉砕されたものでは無い
そこには膨大な生命の死骸と生命の循環があって始めて出来る奇跡の産物だ
1cmの土ができるのに100〜1000年かかると言われている
森林資源はそんな土を守り育てている
そして古くから森は肥料の供給源でもあった
耕作面積を増やす為に森を切り開き
森から肥料を運びだし
活用して人口を増やした結果
耕作地の限界を迎えた中世ヨーロッパでは
森がなくなり薪が高騰し飢饉が訪れ
弱った人々にペストが襲いかかりヨーロッパだけで人口の1/3が死亡し
世界全体で最大で2億人が死亡したと言われている
森林資源を迂闊に使いすぎれば
その反動は大きくなる
森の回復には時間がかかる
19世紀のイギリスは
森からの肥料が取れない状態になり
かつての戦場から遺体を掘り起こし
粉砕して田畑に撒くことすらしないとならない事態となった
人口が増えれば食料生産も増やす必要があるが
森林資源は使えばなくなり回復には時間がかかり過ぎる
その為に人は新たな肥料を探した
アジアでは中国は紀元前から
日本では鎌倉時代から人糞を肥料にしていた
当時は完全な発酵をしないまま使っていた為に
寄生虫や病原菌の蔓延も度々あった
コレラやチフス、赤痢等の疫病の蔓延が歴史の中に重大なファクターになってもいる
ヨーロッパでは
汚物は利用価値のないものとして捨てられていた
こちらは違う理由で疫病の蔓延のリスクを増大させていたが
肥料として使う事はほぼなかった
その代わり家畜の糞尿は大切な肥料だった
間接的な森林資源の使い方で
森で家畜にドングリ等を食べさせ
その糞尿を集めて畑に撒いた
しかしこの方法では
森林資源が消費してしまう
そこに劇的な変化を与えたのが
ジャガイモとカブだ
ノーフォーク農法と言うのは
畑を休ませる休耕地にカブやクローバーを植えて
家畜の餌を増やす事で肥料を増やす事ができる農法だ
そして
ある意味世界史の変化点でもあるジャガイモも
食料の増加だけでなく冬場の飼料としても優秀であり
肥料の増産と家畜の増加を起こし
人口の劇的増加の要因にもなった
しかし
人口が増えれば増えるだけ食料が必要になる
如何に食料として優秀なジャガイモやコーンや米があっても
それを育てる為には肥料が必要だ
植物が育つには
窒素
リン
カリウムが必要不可欠だ
前述のイギリスが戦場の遺体を使ったのは
骨に含まれるのリン酸カルシウムが
畜糞肥料に足りない要素であった為だ
これはイギリスだけでなくヨーロッパ全土で骨の争奪戦が起きていた
イギリスだと年間数万トンの骨が輸入され
「イギリスはヨーロッパ中の骨を飲み込む寄生虫」とまで評られた
骨粉は非常に有効な肥料だったが
骨粉のままだと吸収率が低かった
1840年代に硫酸を加えて水に溶けやすくした
過リン酸石灰が発明された事で
吸収率の問題もなくなった
これが世界初の化学肥料と言える物だ
しかし骨の供給は倫理的な問題も多くある
人以外の骨でも供給量は需要を大きく下回ってしまう
そこにリン鉱石の発見でリンの供給が安定した
リン鉱石はナウルやアメリカ、モロッコ等で産出され
大戦中の日本もリン鉱石を得る為に
パラオやナウル、バナバ島等を占領支配して供給していた
ナチス・ドイツはリン鉱石がなく
輸入も出来なくされていた為に
スマートスラグと言われる製鋼時に出る廃棄物からリンを取り出していた
現在日本でも
製鋼から出る廃棄物からスラグや下水汚泥からリンを取り出し
輸入率を抑える技術開発が進んでいる
植物の成長を促す3つのうちの
窒素はどうだろう
窒素肥料は人口増加と武器に関わる
人類の化学技術の歴史でもある
窒素は堆肥やノーフォーク農家で言ったクローバーの根球菌等で賄っていた成分だ
しかし人口増加でそれが賄えなくなっていった
人口増加と食料不足は
戦争を産む
戦争では武器の開発が促され火薬が歴史に登場していく
火薬は7世紀頃中国で発明されたとされている
木炭と硫黄と硝石で黒色火薬が出来る
それを使った武器である銃が世界の戦争を変えた
しかし
硝石は貴重だ
日本では硝石鉱山がなく輸入に頼るか
ヨモギや糞尿を溜めて培養していた
硝石は窒素の塊であり肥料に最適でありながら
火薬の原料として世界中が欲した
硝石を得る為に硝石使い戦争をし
得た硝石を肥料に火薬に変えてまた戦争をした
19世紀にチリ硝石の大規模鉱床が見つかると
それをめぐって列強諸国が激しく争い
最終的に硝石戦争を制したチリは鉱床を独占し莫大な富を得た
戦争はより強い兵器を産んだ
それがニトロの発見だ
ニトロセルロース無煙火薬とニトログリセリンとダイナマイト
黒色火薬の約3倍の爆発力を持ち滓も殆どでない無煙火薬は隊列して撃ち合う戦争から塹壕戦への戦争の在り方も変える発明だった
ニトログリセリンそのものは
安定性にかけ少しの衝撃で爆発する様な扱いづらい物質だった
それをアルフレッド・ノーベルが珪藻土に混ぜる事で安定性させたのがダイナマイトだ
平和とはかけ離れた2つの物質は戦争の劇化と被害を拡大させ
硝石の重要性をより強いものにした
しかし硝石鉱床は何処にでもあるものではない
硝石確保が国にとって最重要とも言える事態になっていった
そんな中で1904年
ドイツでハーパーボッシュ法が発明された
最も人を救い
最も人を殺した発明とも言われるこの発明は
空気から窒素を取り出す技術だ
これで作られるアンモニアを
先に発明されていたオストワルト法と言う技術を使い硝酸を作り出した事で
化学合成で窒素の供給が出来る様になった
そして
その技術こそがドイツが世界大戦の中心となる力でもあった
現在も使われている技術で
火薬と肥料の原料を生産し続けている
食料の育成に必要不可欠な成分のうち
唯一化学合成で賄っている成分でもある
そして最後の成分がカリウムだ
カリウムも古くから草木灰や糞尿を撒くことで
田畑に供給されていた
それが19世紀にカリウム鉱床が発見された事で
劇的に広まった
しかも世界最大規模のカリウム鉱床がドイツにあり
ドイツが大戦時に戦えたのも
カリウム鉱床と言う天然資源と
ハーパーボッシュ法とスマートスラグと言う技術があったからでもある
そして
世界大戦の裏には肥料資源の争奪戦と言う側面もあったのだ
現在の地球人口は80億人
窒素は化学合成出来るが
リンとカリウムは未だに天然資源が主だ
天然資源はいつか枯渇する
実際ナウルは枯渇して国が崩壊寸前迄になった
今中東やウクライナの紛争で
石油資源にスポットが当たっているが
肥料資源もまた戦争の火種だ
実はかなり危うい肥料資源の分布
80億人の人口がいつ食料危機になるか
それは遠い未来の話ではない