「北海道石」について | なんだかんだの石集めと与太話

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鉱物を初めて手にしたのは、小学生の時。それからずっと中断。
2011年頃より、やっと暇になったので、また石の世界へと羽ばたき始めたけど。

鉱物の定義の確認

 

 最近、北海道の鹿追町や愛別町で採集されたオパールから、新鉱物の「北海道石」が見つかって話題になってますね。しかも、それは有機物の多核芳香族炭化水素であると。

 うーむ、これは普通に言われている鉱物の定義から外れていますよね。こちらを参照のこと→wikipediaでの定義

 

 で、最近では有機物も鉱物に含まれると考えられるようになってきています。要は、「天然の作用で出来た物質で、組成結晶構造を持つ物」の3つがある必要がある事に纏まってきそうですが、それでも相変わらず自然水銀は外れます。水銀は通常液体で結晶構造を持ちません。なので鉱物の定義から外れます。でも多くの人が鉱物に入れてますね。鉱物の定義は、なかなか相変わらず中途半端なままですが。

 

 先日の鉱物情報の例会で、松原先生が新鉱物の中でもその有機物鉱物の北海道石も紹介してました。

 

北海道のオパール

 で、話題のオパールは、紫外線で綺麗に発光することが知られていて、ミネラルショーなどで売られていたりします。私は、産地が遠いので、昨年末の埼玉のミネラルショーで購入したのは以前にも書きました。前回と試料が上下逆さで紫外線の波長も違うけど。

   

写真1a オパール(北海道・鹿追町産、LED下)

 

   

写真1b オパール(北海道・鹿追町産、短波長紫外線照射下)

あまり顕著に見えないのは、カメラのせい(^^;;;です。

それと長波の紫外線でないのが、いけないのかもしれませんが。 

 

 北海道の然別のオパールについては、参考

 

 

 

ミネラの特集から

 で、今月のミネラ(No84)をみると北海道石について、その特集があります。

 

 

 内容を見ると、蛍光の原因はオパール中に含まれる多環(多核とも言うんではなかったかな)芳香族炭化水素であるとの説明が。ちなみに芳香族炭化水素の説明は、こちらで → wikipediaでの説明

 

 芳香族炭化水素を知るには、基本のベンゼン環を知らないといけません。その化合物の名は、六角環状の化学構造を持ち、その基本構造を持つ物質はほとんどが良い香り(芳香)を持つことに寄ります。

 多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbon,略してPAH)は、その基本の六角環状のベンゼン環が隣接して次々と結合した化合物の仲間です。ナフタレンやアントラセン、ペリレン、ベンゾペリレン、ベンズピレン、コロネンなどがそうです。 ちなみにPAHとしてどんな物があるかは、以下の所へ→英語版wikipedia

 

 ベンゾペリレン(C22H12)は、1つの六角の環の5つの辺にベンゼン環が接合し、コロネン(C24H12)が1つの六角の環の周囲6辺にベンゼン環が接合した化合物です。

 以下に石、だいたいオパールのようですが、その中に見つかっている多環芳香族炭化水素であるペンゾペリレンとコロネンの化学構造式を示しておきます。

        ベンゾペリレンの化学構造式(wikipediaより)

 

        

   コロネンの化学構造式(wikipediaより)

 

 上の二つの物質は、それぞれ鉱物としては以下のようにまとめられます。

   北海道石では、ペンゾペリレン

   カルパチア石ではコロネン

 ですが、北海道のオパールでは、ベンゾペリレン、コロネンの両方が見つかっているので、北海道石、カルパチア石の両方の石があることになります。

 

 で、コロネン黄色針状結晶であるが、紫外線照射により強い青色から黄緑色に蛍光するのだそうです。

 が、ペンゾペリレンの色と蛍光については探しても今のところ見つからない。が、たぶん分子の大きさに僅かな違いしかないので黄色ないしは黄緑色とちょっと違った色だろうと思います。分子の大きさを考えると蛍光も僅かにより青い方になっているのではないかと推測しますが、違うかな。

 

 ちなみに芳香族炭化水素のベンゼン環がどんどん結合していくと、炭素が多くなり一方で分子に含まれる水素の割合が少なくなり、次第にグラフェン(単層の黒鉛)に近づいていき、導電性が高くなっていくだろうと思います。当然、結合するベンゼン環の結合が多くなると光を吸収して、黒くなっていきますね。導電性高分子などではそのような特徴を持っています。導電性高分子も成膜できると透明ですが。

 また、それらの性質として、意外に耐熱性が高いことです。加熱しても分解しにくい。なぜかは、上の説明を見て考えてください。そして、水や有機溶剤に溶けにくくなることです。このことは次の解析を難しくしているだろう理由の一つだと思います。

 

 ペンゾペリレン(北海道石)とコロネン(カルパチア石)の違いは、ベンゼン環(すなわち炭素)の数ですね。

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 ベンソペリレン → 亀の甲(六角形) が6

 コロネン    → 亀の甲(六角形) が7

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 それによって分子の大きさが異なることから、発光する色も僅かに変わってくるだろうと推測します。

 

 ちなみにオパール中の蛍光物質には、更に別の物質があるのか更に調査が進んでいるそうです。私の推測では、ベンゾペリレンなど多環芳香族炭化水素でも、異性体が考えられ、その違いを区別して同定するのは難しいし、コロネンよりも多環になると平面を保つのが難しくなって、つまり不安定な物質になって分解ないしは更に反応してしまって、このこともこれ以上の多環の物質を見つけるのを難しくしている理由だろうと思います。 

 逆にペンゼン核(六角形)が一つ少なくなると異性体(組成と分子量が同じだが、化学構造が異なるもの)がいくつか存在し、分析が困難になるだろうと推測されますね。

 

私のPAHに関する思い出

 話は大きく変わって、私の学生時代の研究は、「多環芳香族炭化水素の電気化学的研究」でした。多環の芳香族炭化水素の合成は一部は人に頼みました。大正時代のドイツの文献を見ながら多環芳香族炭化水素のいくつかの物質を合成をしましたが、作れた量は100mgもありませんでした。なので非常に貴重でした。実験では、5mg程度を使用しました。合成の最後では、シリカを使いクロマトグラフィの原理で分離し、分離液を蒸留後、昇華させて更に分離精製して純粋な物を得ていましたね。凄く合成に日数がかかったのを覚えています。合成後はきちんと出来たのか同定まで行わなくてはいけませんから。

 

 ある時、どうしても合成法がわからない物質があって、化学薬品のカタログには掲載されていたベンゾピレンという物質を購入することにしました。最近の和光純薬のサイトを見ると、この薬品、20mgで20600円で販売されています。1gも購入すると100万円もします。学生の時には合成できなかったので仕方なく市販品を購入したし、実験では2mg程で実験を行いました。(ちなみにコロネンの価格は、東京化成のサイトを見ると1gで13800円です。)

 

 購入した薬品のラベルには、外国から仕入れた物らしく、普通の辞書に掲載されていない単語(carcinogenesisだったかなあ)が書いてあり、わからないままにその薬品を使用し、実験後は溶液を廃液入れに捨て、使用した器具は水道で素手で洗っていました。その後、図書館にある英語の辞書を調べ尽くして、その意味がわかったときは驚きでした。その英語の意味は「発がん性物質」だったのです。 ベンゾピレンは、発がん物質の中でも特異的な、発がん物質の王様なのです。その上に溶液として使うと発がん性は高くなるんです。

 

 なので、就職してから数年は、いつ発がんするかと心配でなりませんでした。が、今もって発がんしていないことをみると、多環芳香族炭化水素は水に溶けにくく、洗剤できちんと洗っていたので、洗剤がそれに纏わり付いて、皮膚との接触を断ってくれていたのかもしれません。

 

 そしてまた、環数の多くない芳香族炭化水素について少し書いておくと、いくつかの芳香族炭化水素では、①先に電気化学的還元(電子が付く)して、次にすぐに電子を取り去る(酸化)の場合ではしっかりと還元酸化する、可逆的傾向は強いですが、②先に電気化学的酸化(電子を取る)をし、次にすぐに還元(電子を付けようと)しても、簡単に分解してしまいます。なので、酸化が先で還元する場合で可逆的な性質の物質を探すのに苦労した記憶もあります。懐かしい思い出です。

 

 も一つおまけで。

 多環芳香族炭化水素は、環数が多くなっていくと平面が維持できなくなって、フラーレンカーボンナノチューブになっていくんだろうと思います。言い換えると「炭素だけの構造に近づいていく」です。単層でもの凄く大きくなったのが、グラフェンです。グラフェンが多層になるとグラファイト(黒鉛)です。ちなみに単層のグラフェンは透明だという話を聞いた覚えがありますが、爺なので記憶違いかなあ。

 

 なので、次に見つかるとしたら、多核芳香族炭化水素でもフェニル基(ベンゼン環と似た構造だが、少し異なる)などを持つ多環の一部に別の官能基が結合した物質だろうと推測されるし、それらは同定が難しいだろうと思うので、見つかるまでに時間もかかるだろうと思います。

 

最後に参考文献

1.北海道石に関する報道についてはこちらに → 北海道石

2.然別のオパールについての地質調査所の研究報告は、

       こちらを参考に → 然別のオパールの研究

 

 長々失礼しました。