鉱物って面倒 | なんだかんだの石集めと与太話

なんだかんだの石集めと与太話

鉱物を初めて手にしたのは、小学生の時。それからずっと中断。
2011年頃より、やっと暇になったので、また石の世界へと羽ばたき始めたけど。

 集めた石をみんなどんな風に収納しているんだろう。恐らく、名前別硬さ別値段別大きさ別色別なんて人は稀で、図鑑に従って化学組成別産地別に収納している人が多いのではないかな。私の場合は、一部は産地別、一部は組成別、残りはランダムで未整理状態。どこにあるのかわからない物が多い。

 で、図鑑の多くは化学組成別に分類している物がほとんど。他に、結晶の形、産地地方別などがあげられる。

1.鉱物とは

 基本に返って、「鉱物とはなにか」と言うとき、必ず鉱物では①自然の力によって生じたことは言うまでもないが、その他に、②組成と③結晶構造の2点を持つことを言わねばならない。参考1を見れば、「鉱物は、天然における物理化学的作用によって形成された地殻を構成する無機質、均質、結晶質の成分単位である。そして、その形態、化学組成、諸物理的性質は基本的に一定であるが、多くはある範囲において変化する。しかしそれらの変化は結晶構造及び結晶化学的特性によって規制されている。」とある。なにを言っているのかよくわかりにくいところがあるが、そのわかりにくい原因は鉱物が固溶体や累帯構造を持って現れていることを言わんとしていると思われる。

 鉱物で、「天然の物理的、化学的作用によってで生成されたもので、一定の化学組成とその結晶構造を記述しなくては鉱物と言わない」とすると、自然水銀オパール琥珀などがそれから外れてくる。これらは例外的に鉱物に扱うことが多いが、石炭石油は一定の性質(参考9)を示さないから、鉱物には入れない。参考7には鉱物の定義として、以下のように書かれていて、水銀、琥珀は鉱物に入れず、オパールは準鉱物としているが、本には掲載している。
 「・天然に産出する、固体無機物質である。
  ・その組成は、化学式によって記述できる。
  ・構成元素の配列が規則的である。つまり結晶質である。
  ・物理的性質が、狭い範囲に収まる。」
 ついでに参考6を見ると、水銀、オパールは掲載されているが、琥珀の項目はない。

2.鉱物での累帯構造

 鉱物の世界には、累帯構造といわれる状態が存在する。動植物の世界にも存在するのかはっきりと知らない(人間の男女の間に似たようなことがあるらしい、そんな学説を見たことがある。(男...半陰陽...女)と連続のスペクトラム的に考えるのが妥当らしい)が、鉱物では、同じ結晶構造を持つ異なった物質がその一部を少しずつ組成を変えながら別な化合物に変わっていくことができる。こういうことは、原子半径やイオン半径が近い原子が類似の化合物を形成する際に生じやすく、類似の結晶構造を持つことが多い。それは累帯構造を持ち、組成が少しずつ変化する固溶体を形成しやすい。固溶体と累帯構造は関連していて切り離すことが難しい。固溶体の例として、斜長石における灰長石と曹長石、かんらん石における(Fe-Mg)の関係、鉄礬柘榴石と満礬柘榴石の関係などがあげられる。他に尾去沢石とビーバー石の関係や多くの輝石などでも見られる。このようなことはイオン半径の近い物質で起こりやすい

 累帯構造を示す鉱物では、結晶構造も類似しているので、見た目だけでは同定できず、組成分析が必要となってくる。鉄礬柘榴石と満礬柘榴石では、しばしば満礬石榴石と思っていた物が、分析してみたら、鉄礬石榴石だったと言うことをしばしば聞くことがあるのはそのためで、自然から採集した鉱物を特定する際には、最低でも①化学組成と②その結晶構造がわかることが必要なのだ。

3.鉱物の分析
 1)組成分析
 鉱物の組成は、昔は化学分析で行われていたが、最近では微小な物も測ることが出来るEPMA(電子線プローブ微小部分析)XRF(蛍光X線分析装置)などの物理的な機器分析よって調べられる。EPMAの場合でも微小部と言っても大きさが1μm(10^-6 m)程度までのサイズで、それよりも小さい物は分析が難しい。XRFでは、EPMAよりもX線のビーム径を絞れないので、より微小な物の分析は難しい。最小でも数十μm程度ではなかったかと。ビーム径の大きさや測定時間などによって測定精度も変わってくるが。EPMAやXRF、後で示すXRD等の機会分析では、基本はフラットの表面を測定することが条件だ。現実には、そんなことをお構いなしに測定している場合が多いのではないかと思う。その理屈で考えると、例えば穴の中に存在する結晶の組成を調べようとすると、ビームは穴の周囲の所に当たり、目的とした結晶には当たらず、全く異なるおかしい結果を与える。このことは分析を始めたばかりの人には気づかないことが多い。そんなことを昔の仕事の現場でよく経験したが。

 また、機器分析の際には、深さ方向も考えなくてはいけない。XRFやEPMAでは、X線が透過して、反射して戻ってくるだけの深さまでしか分析できない。表面が平でも深さはせいぜい10μm(10^-6 m)程度までではなかろうか。

 

 固体の表面を分析する時、しばしばAuger(オージェ)電子分析装置(しばしばAESと略す)やX線電子分光装置(XPSまたはESCAと略す)を用いる。AES、ESCAの分析では、いずれも深さが数nm(1nm=1^-9m、数十原子の厚み)の極薄表面を測定しているので、これを鉱物の分析に使用することは通常は適当ではない。

 

 付け加えておけば、走査電子顕微鏡(SEM)など電子線を当てて観察したり、電子線を与えて分析するEPMAなどでは、試料表面が導電性がないと表面に当たった電子が流れていかず溜まり(帯電)、電子が邪魔されて、分析することができないので、金や炭素を蒸着やスパッタリングによって表面に析出させ、導電性を持たせる処理を行うのが普通なのだ。

 

 2)結晶構造の決定
 一方、鉱物の結晶構造は、X線や電子線などによる回折法(ブラベの式やラウエの式の利用)によって調べられる。多くの化学物質や鉱物について結晶構造が解析されており、それがデータベースとして作られている。通常はこれを利用して分析する。結晶構造の解析がされていないものについては自ら結晶構造の解析をしなくてはならない。しかし、これらの分析は構成する原子の構成比である組成を調べるものではないし、どの原子同志が結合しているかという結合の状態を調べるものではない。原子の存在する位置、すなわち結晶構造を調べる(時には電子密度分布)だけである。従って、例えばXRD(X線回折)で鉄礬柘榴石と満礬石柘榴石を調べようとすると、鉄(Fe)とマンガン(Mn)のイオン半径が近いので結晶構造が類似し、回折スペクトルも非常に近いところに現れて、その違いを区別することが難しい。繰り返すが、XRDではどの原子とどの原子が結合しているのかということや原子の構成比の情報も与えてくれない。あくまでも結晶構造だけだ。また、X線のビーム径はよく絞っても10μm(10^-5 m)程度で、それよりも小さい物の分析は難しい。X線ビームの物質への透過を考えると、透過しやすい軽元素は測定が難しいし、ビーム径よりも小さい物の分析は当然さらに難しくなる。ビームを絞るとX線量が少なくなって、より精度の高い測定をするためには一定の線量が必要なので、測定時間を長く取る必要があったりする。

4.イオンの大きさと結晶構造

 ところで、以下はいずれも炭酸塩で陽イオン半径が異なっている。

       鉱物              イオン種 イオン半径(A)

   MgCO3(菱苦土石)       Mg2+  0.78

   FeCO3(菱鉄鉱)         Fe2+  0.82

   ZnCO(菱亜鉛鉱)        Zn2+    0.83

   MnCO3(菱マンガン鉱)          Mn2+    0.91

   CaCO3(方解石、あられ石)     Ca2+   1.06

   SrCO3(ストロンチアン石)       Sr2+    1.27

   PbCO3(白鉛鉱)                   Pb2+    1.32

   BaCO3(毒重土石)                Ba2+    1.43 (単位:A、オングストローム=10^-10m)

 イオン半径が異なると、最初の5つまでは化学的性質も似ており、方解石型の菱面体系の結晶構造を持つが、CaCO3から後ろではイオン半径が大きく、霰石型の斜方晶系の結晶構造を持つようになる。
 これはイオンの大きさ結晶構造決めているのがわかる面白い例だ。

5.鉱物命名のルール

 鉱物を決める際に、累帯構造があるために、鉱物を決める際には、「1/2ルール」を用いてどちらかに定められる。斜長石では、以前にはいくつかに分けられ細かく分類されていたが、現在では用いられなくなった。
 現在では、斜長石(曹長石-灰長石)や柱石(曹柱石-灰柱石)などでは、NaとCaの量比で命名することが普通になっている。橄欖石Mg2(SiO4)(Forsterite)2やFe2(SiO4)2(Fayalite)でも同じルールが適用される。

 

 しばしば、福島県塙(はなわ)町長久木の緑簾石は、実は斜灰簾石(参考11)ではないかと言われることが多い。同志会会誌の水晶(参考10)を見ると、緑簾石とするのが妥当であると書かれている。
  緑簾石    Ca2FeAl2(}Si2O7)(SiO4)O(OH)

  斜灰簾石 Ca2AlAl2(Si2O7)(SiO4)O(OH) 灰簾石とは結晶構造が異なる

  灰簾石  Ca2AlAl2(Si2O7)(SiO4)O(OH)

  紅簾石  Ca2Mn(Al,Fe)2(Si2O7)(SiO4)O(OH)


 と、いろいろ考えてくると、鉱物名を決めることは、ある意味面倒で大変なことだなと感ずる。

参考
1.原田準平,鉱物概論 第二版,岩波書店,p289-301(1973)
2.桐山良一,構造無機化学III 第二版,共立出版(1978)
3.松原聰、宮脇律郎、門馬綱一,鉱物の博物学,秀和システム,p256-277(2016)
4.木下亀城、小川留太郎,エコロン 岩石鉱物,保育社(1995)
5.A.A.Godovikov、S.N.Nenasheva,Structural-Chemical Systematics of Minerals 3rd edi.,Springer,Switzland(2020)
6.FLEISCHER'S GLOSSARY of Mineral species,M.M.Back,The Mineralogical Record Inc.(2018)
7.青木正博,鉱物分類図鑑,誠文堂新光社,p8(2011)
8.木下亀城、湊秀夫,続原色鉱石図鑑,保育社(1963)

9.純物質と混合物

 この区別は、現在では多くの人が高校の化学基礎で習うが、結構わからない人が多い。混合物では「1/2ルール」は適用されない。純物質と混合物の区別は、その集合体が基本的に沸点、融点、密度など物理的性質や化学的性質に関して一定の性質を示すかしないかで決まることを忘れてはならない。

10.前原要,水晶(鉱物同志会会誌),v33,p23-27(2019)

11.寺島靖夫,探検 日本の鉱物,p166(2014)