安積石膏鉱山は、黒鉱鉱床の鉱山の一つと言われている。けれど、採掘されたのは石膏が主体の、名の通り、石膏を採掘した鉱山だ。ズリには石膏はたくさん落ちている。けれど、ここで有名なのは別なところにある。ストロンチウムを含む天青石が採集できる、日本では数少ない鉱山なのだ。マダガスカル産の天青石ほどの美しさはないが。ここは熊や猪に出会わなければ、恐い物はない比較的簡単に行ける産地だ。
ところで,ここでは方鉛鉱、閃亜鉛鉱、ましてや黄銅鉱や黄鉄鉱などはほとんど産出しない。あっても極小さい。産出するのは、石膏がほとんど。それではなぜここは黒鉱鉱床と言われるのだろうか。
黒鉱鉱床は、その形態が大部分層状であるという。小坂鉱山内の岱鉱床がその典型例としてよく示されている。そこでは、黒鉱鉱床の下部に、熱で変質した白色流紋岩が存在し、その上に珪化作用を受けた珪鉱、珪鉱の上には黄銅鉱、黄鉄鉱からなる緻密な黄鉱、黄鉱から上は次第に方鉛鉱、閃亜鉛鉱、重晶石に富むようになり、黒鉱が最上部に存在する。石膏は鉱床の側方部に存在する。安積石膏鉱山は、この黒鉱鉱床の石膏部と考えられるのだ。
参考に黒鉱で有名な秋田県にある小坂銅山の露天掘りの航空写真を以下に示します。ここは会社の敷地内に在って、とても深く危険なので立ち入りはできません。時折秋田大学とかの研究室が黒鉱研究で会社の許可を得て案内されて大勢で訪ねることがあるようです。
(国土地理院の航空写真から)
よく見ると段が幾つもあるのがわかる。
安積石膏鉱山への道順は、参考1~3などに書かれている。郡山市内から県道6号線を三森峠に向かって進んでいく。峠ではトンネルを抜けて、家のない、明るい林の中の暫く走って、平になってしばらくで右に入る道あるのでそこを入っていく。入口に林道横沢線である表示が入口の上にある。そこからすぐにゲートがあるが、私が訪ねたとき(2013年)にはゲートが開いていたので、その先まで車で入っていった。が、途中で川岸が削り取られて道が狭くなっている所があった。現在は改修されて通りやすいと思うが。大方はゲートで車は駐められることを覚悟して置いた方がいい。ゲートから徒歩で5分ほど進み、分岐では私は左を直進した。右は山へ上る道となっていた。参考2のミネラでは、右の方に進んだようだが。
図1 安積石膏鉱山付近の地図(国土地理院の地図から)
写真2 安積石膏鉱山付近の航空写真
赤丸で囲ったところがズリ
(国土地理院の航空写真から)
分岐で左を取って進むとすぐに右側に鉱石を積み込むためのホッパーの跡らしいコンクリの建造物が見える。手前は水が溜まって泥濘んでいたので回避しながら登るとすぐにズリに出た。ズリは粘土質の土で、下の方ではイノシシが掘ったと思われた穴があった。牙で掘ったらしい跡があったので、ちょっと恐いなあと思いながら、そのズリをちょっと探し、右に迂回するように広いズリの方に回った。広いズリでは、松の木が幾つか大きくなりつつあったが、傾斜地で木は育ちにくい感じだった。
写真3 奥の広いズリの端から撮影
ここで採集できる天青石と硬石膏は同じ硫酸塩で、同じ直方晶系の結晶構造を持つ。なので硬石膏の中のカルシウムの一部にストロンチウムが入り込む可能性がある。それが熱水で分解し、再結晶するとき、石膏は単斜系の結晶構造なので、ストロンチウムは入れずに天青石(直方晶系)として析出すると考えられている。(参考6)
ちょっと書いておくと、硬石膏と石膏は別の鉱物。
硬石膏 CaSO4 直方晶系 (立方体のような結晶)
石膏 CaSO4・2H2O 単斜晶系 (雪花石膏、繊維石膏、透石膏などがある)
天青石 SrSO4 直方晶系
美術での塑像を作るときに使う「焼き石膏」は、1水和物(CaSO4・H2O)だったと思う。
さて、採集の話だが、ズリでは石を割る為のハンマーは必要はない。熊手もいらないだろう。実際何も使わず、あちこちをウロウロして、表面にある石を拾うだけだった。粘土質の土の上にたくさん転がっている。拾い上げた物は粘土が付いていて、すぐの判別は難しいだろう。家に帰ってからよく洗って確かめる必要がある。ここでは石膏と天青石がメインだ。時折小さい黄鉄鉱などを目にする程度。石膏も、雪花石膏、繊維石膏の形でたくさん落ちている。透明な単一結晶の透石膏はほとんど見られない。硬石膏もあるのだろうけれど、石膏と硬石膏の目での区別は難しい。硬石膏と石膏の違いは、ともに硫酸カルシウムを含むが、硬石膏は無水和物で、石膏は2水和物の違いだ。試験管に小片を入れて加熱すれば、試験管の壁に水が付くかどうかで区別できるだろう。水が出なければ硬石膏、水が出たら石膏だ。
天青石は、所属する鉱物の会の会員が同じ頃に別々に採集に行き、下の上写真と同様なものを採集している。私はそれぞれの実物を見たことがある。石膏のサイズも、付いている天青石サイズも下の写真の物とほぼ同じだった。天青石であることは、白金線を用いて粉にして付けて、炎色反応を試してみると解る。水溶液にして、アルコールランプの炎に吹き付けてみても解る。いやこれは溶かす前処理が必要だが、真紅の炎になれば、ストロンチウム(Sr)の存在は確認できる。ちなみにカルシウムは、赤橙色。石膏と天青石が混じるとわからないかもしれない。しっかり分離した物で行えばできるはず。
写真4 天青石
(中央付近の青灰色のモコモコとした部分、自採集品)
中央右の部分も青灰色なので、そこもそうかもしれない
他の部分は繊維石膏
写真6 雪花石膏
(全体に結晶が小さく、雪のようで。四角のマスは1cm角)
写真7 繊維石膏
(雪花石膏より結晶質で、繊維のように細く長く、透明感も)
写真8 透石膏(繊維石膏よりも透明感があり、結晶質で)
おまけにマダガスカル産の天青石の写真を。
写真9 天青石(マダカスカル産)
1.松原聰,鉱物ウォーキングガイド 全国版,丸善(2010)
2.ミネラ,No71,p30-33(2021)
3.林幹雄,原田誠治,鉱物情報,No154,p5(2008)
4.鹿園直建,地の底のめぐみ,裳華房(1988)
5.石川洋平,黒鉱-世界に誇る日本的資源をもとめて,共立出版(1991)
6.Matsubara Akira,et.al.,Mineralogical.J.,16,p16-20(1992)