0.はじめに
日三市鉱山は、亀山盛鉱山@秋田、三川鉱山@新潟などと同じ二次鉱物の産地として有名なところだ。孔雀石、クリソコーラ、青鉛鉱などが採集できる他、なんといってもベゼリ石や針状の赤銅鉱、紫水晶の産地として知られている。
ベゼリ石は、荒川石として一度報告されたが、その後取り消されてしまっている。荒川石は(東大にある)若林コレクションの若林彌一郎が最初に報告(参考5)した鉱物である。
追記(2023/11/7)
新しい訪問記が以下の所にあります。
→ こちら
1.産地
この鉱山は、松原先生の本(参考1)に紹介されている。私も何回か訪ねたことがある。日三市鉱山は、荒川鉱山や亀山盛鉱山の近くにある。荒川鉱山や亀山盛鉱山を訪ねたついでに何回か訪ねた。
写真1.日三市鉱山の場所
右端の赤丸近くの白い2箇所が日三市鉱山のズリ
上の方にある赤丸近くの白い2箇所が亀山盛鉱山
左下の赤丸付近が荒川鉱山跡 (google mapより引用)
写真2.日三市鉱山ずり位置(赤丸で囲った部分)
(google mapより引用)
写真3.日三市鉱山ずり位置(上部少し左側にある白い2箇所)
(google mapより引用)
写真4.日三市鉱山ズリ(国土地理院の航空写真より引用)
日三市鉱山へは、荒川鉱山の方から来るのが普通かもしれない。荒川鉱山の方から国道46号線を角館の方に進む。雲澤郵便局の角で北上して雫田の集落へ。集落のところで90度に道は曲がるが、ズリに行くにはまっすぐに進む。この道に入ると車がすれ違えない程の狭い道になる。実際採集後の帰り道で採集に来たと思われる親子が乗る車とすれ違って、ぎりぎり通ることができたが。集落からズリの方に進むと左手に大きな池がある。さらに進むと橋を左折するように渡る。橋を渡ったすぐ前にある、拡がった所が鉱山事務所などの跡らしいが、ススキが茂っているだけで何かあるのかと思う程度。気せず先に進む。その跡に沿って更にまっすぐな道を100mほど登っていくと分岐があるが、右を選ぶ。すぐに川を渡り、そこから200m程更に進むと広場のような所に出る。そこは、少し左に傾斜している。左側に、本に書かれている、「新抗沢」の立て札がある。そこに車を駐めます。何度か訪ねましたが、立て札の回りの木が生長してこれが見えないこともありました。訪ねる場合は注意してください。
写真5.左に見える車の左側に「新杭沢」の立て札がある。
急に狭く急坂のぬかるみがあったり、石ころゴロゴロだったり、鹿の頭の骨が転がっていたりの荒れ道となる。ここから健脚の私で10分(普通の体力の人なら、20~30分)ほどで、第二ズリの到着する。
写真7.第二ズリに到着、
下の(右側)写真の中央少し上にある枯れ木の横の
白い点の箇所(ズリ下)からの写真
(↓この木は上写真にも写っている)
写真8a.第2ずりの上から、右側(登ってきた方向を見る)
(上の写真(左側)の上部、
右にある木は、下の写真(右側)にも全体が写っている。
写真8b.第2ずりの上から、左側
写真9.第2ずりの上から見た風景
2.日三市鉱山の鉱物
話変わって、燐と銅を含む鉱物と言えば、ベゼリ石の他に燐銅鉱、擬孔雀石があげられる。化学式は以下のようだ。
ベゼリ石 (Cu,Zn)3(PO4)(OH)3・2H2O
擬孔雀石 Cu5(PO4)2(OH)4
燐銅鉱 Cu2(PO4)(OH)
ベゼリ石は、荒川石として言われていたことがあった。再検討されて、その名も消えてしまったが。ベゼリ石を目的に何回か採集しに行ったけれど、緑がかった石を拾ってきて20個ほどの石を分析に掛けたが、リン(P)を含む石を一つも見つけることができなかった。
ちなみにベゼリ石の写真を、参考2や3で見ると緑が強いが、参考4の名古屋鉱物同志会のHPのものを見るとかなり青っぽい。亜鉛が多くなると青みがかると言われているが。
上の3つの鉱物の化学式を見ているとにリン酸分が順に多くなる。リン酸分が多い環境下で燐銅鉱が生成してくることが解る。そう考えてもベゼリ石が見つからないのはなんとなく悔しい思いがある。
ここではけっこう紫水晶も見つけることが出来る。ここの水晶は、亀山盛鉱山や荒川鉱山とほぼ同様の形の水晶だ。あまり結晶の側面が発達しておらず、結晶がくっついている傾向がある。なので、あまり採集しても面白くないのだが、2015年の時には全く採集できなかった。
写真10.紫水晶(日三市鉱山、試料サイズ約40mm)
(日三市鉱山、最大長約250mm)
車庫に転がしてある。
発行されている図鑑には、此処の針状の赤銅鉱の写真が見られる物があるが、赤銅鉱は全く見つけられていない。また自然銀も採集したという人にあったことがあるが、これも見つけられていない。
最初に此処を訪ねたとき(2011年)は、ズリの下の方では石や岩の表面には苔が生えて乾燥した物が付着していたりしていた。ズリの下ではあまり掘られていない様子だった。が、2012年の頃には、随分とあちこち掘り返されて苔が生えた石はどこへ行ったのかと思うほどだった。
また、2015年に訪ねたときには、一番上のズリの下側にも道ができていて、随分と様変わりしていた。
写真12.擬孔雀石
(かもしれない、2015年に採集、分析してない)
(日三市鉱山、黒の円板径120cm)
分析確認済み、実際にはもっと緑味が強い)
(皮膜状に見えるが、顕微鏡で見ると結晶が並んでいる。)
(日三市鉱山、白い板サイズ43mm)
写真14.クリソコーラ(珪孔雀石、日三市鉱山、
白い板サイズ80mm、2012年採集品)
参考に別の産地のベゼリ石の写真を
写真15.ベゼリ石(滋賀県灰山産、現金採集品、白い板43mm)
(実際にはもう少し緑味がある)
ちなみに、銅とリン酸イオン、水酸化物イオンを含む鉱物には以下のような物がある。
ベゼリ石 (Cu,Zn)3(PO4)(OH)3・2H2O
擬孔雀石 Cu5(PO4)2(OH)4
燐銅鉱 Cu2(PO4)(OH)
コルネ石 Cu3PO4(OH)3
ライヘンバッハ石 Cu5(PO4)2(OH)4
ルジバ石 Cu5(PO4)2(OH)4
コルネ石,ライヘンバッハ石とルジバ石の日本での産出はない。コルネ石とベゼリ石は、水の分だけ組成が異なり、擬孔雀石とライヘンバッハ石は化学式と結晶系が同じだ。密度、硬度などが違うんだろうと推測する。密度が違うと原子の詰まり具合が違うので、結晶系も違うような気がするが。
ここでベゼリ石から燐銅鉱の3つだけを考えると、Cuに対するPO4の比が順に大きくなる。ベゼリ石は銅が多くてリン酸分の少ない環境でできやすいと考えると、燐銅鉱はなかなか見つからないだろうと推測できる。日三市のベゼリ石には亜鉛(Zn)が含まれてきているが、基本的にリン酸イオンより硫酸イオンが多い場所なのでブロシャン銅鉱(Cu4(SO4)(OH)6)が多くて、それに不純物イオンとしてリン酸イオンも食われてしまっているのかもしれない。ベゼリ石が見つかりにくいのは、そんなせいかもしれない。
3.最後に
日三市鉱山での採集目的は、紫水晶、ベゼリ石、針状赤銅鉱、他は孔雀石、藍銅鉱、青鉛鉱、ブロシャン銅鉱などの二次鉱物です。二次鉱物なら亀山盛(きさもり)鉱山でも拾えます。ここでは、不思議なことに方鉛鉱、閃亜鉛鉱が亀山盛鉱山同様になかなか拾えません。
1.松原聰,鉱物ウォーキングガイド全国版,p124 ,丸善(2010)
2.松原聰、宮脇律郎,日本産鉱物型録,東海大学出版会(2006)
3.松原聰,日本の鉱物,学習研究社(2003)
4.名古屋鉱物同志会のHPの燐銅鉱
http://www.nagoyamineral.com/zukan/custom27.html
5.若林彌一郎が最初に報告したベゼリ石(荒川石)については以下のサイトで。
荒川石(Arakawaite)に就て - 国立国会図書館デジタルコレクション (ndl.go.jp)