青森県茂浦鉱山での四面銅鉱の採集 | なんだかんだの石集めと与太話

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鉱物を初めて手にしたのは、小学生の時。それからずっと中断。
2011年頃より、やっと暇になったので、また石の世界へと羽ばたき始めたけど。

 茂浦鉱山は、綺麗な黄鉄鉱と単独結晶の安四面銅鉱が採取できることで知られる。四面銅鉱の産地は結構知られているが、単独の正四面体結晶となるとちょいと珍しい。茂浦鉱山では日本では比較的大きい単独結晶の安四面銅鉱が産出されることで知られる。その四面銅鉱の写真は、松原先生の本(参考1)に掲載されている。そこには産地が青森県平内町茂浦鉱山としっかり書かれている。私も2014年と2015年に採集に出掛けている。
 

 国土地理院の地図から(産地は、上部の赤十字の所。)


 産地には、2014年に鉱物同志会のメンバーと一緒に初めて行った。その採集記録が参考2に紹介されている。それには一辺が15mmほどの四面銅鉱や母岩付きの四面銅鉱を採取したことなどが書かれている。(参考2)


 採集の際には、友人のH氏が三重在住のマニアから教えてもらった地図があったので、当初は簡単に産地が見つかると思っていたが、山の中を大勢でウロウロする羽目になった。けれど大勢であったから2時間も掛からずその場所を探し出した。そこはとても産地とは思えないような狭い場所だった。採集場所も二人も座ると他の人が探せない状態だった。

 

           

産地への林道入口(ここから左の林道に入る、google mapから)

 

         

産地(背中に白い横ラインの人と右横の緑の荷物の間、2014年当時)

 

         

2015年GWの時の産地の状況(上写真の約1年後)

 

 2015年に同じ場所に行くと、産地は広く掘られ水が溜まり、直径2m程の浅く水が溜まった池となって泥濘んでいた(上写真参照)。その時には、京都から来たという三十代と思われる若い二人が力任せにシャベルを使って掘って探していたが、2時間以上経っても全く見つけ出せない状態だった。聞けば、2日連続だそうで。前日には、別な東京から来たグループが居たそうだ。採集では、私はといえば、溜まった水の中から泥を掬い出し、メッシュの網の上に載せて、水の中で泥を洗い流す作業をして、2時間ほどで小さかったけれど綺麗な正四面体の結晶を5、6個見つけ出すことができた。四面体が見られないような物もたくさん見つけたが拾って来なかった。

 


安四面銅鉱(右下の四面体の一辺の長さは約7mm)        


 茂浦では、ピカピカの黄鉄鉱もたくさん見つかる。最大の物は10mmほどだ。立方体の他に五角十二面体の結晶、またその混合した結晶の黄鉄鉱が見つかってくる。その結晶と共析したり、その傍に四面銅鉱の結晶が産出するようだ。
        

黄鉄鉱(右下の結晶のサイズは、約7mm)
 

 数年前のあるミネラルショーで、1袋に5,6個入りの10mmほどもある大きなサイズの安四面銅鉱が入った袋が幾つも出品されていたのを見たことがある。あんな大きなサイズの物がたくさんあって驚いたのだが。私が2015年に現地に行って採集したときには、小さいサイズの物しか採れなかったのも頷ける。

 ところで、参考3を見てみると、安四面銅鉱の化学式の書き方がかなり異なっている。

   3aでは、(Cu,Fe,Zn)12Sb4S12
   3bでは、Cu6[Cu4(Fe,Zn)2]Sb4S13 

 これは一体どうしたことだろうか。またさらに鉱物データベースとして知られるTrekGEO(参考4)をみると硫黄Sの13個の内の1個が以下のように別に書かれている。

   Cu+6[Cu+4][X2+2][Sb3+4][S12][Y] 
   (XにはFe,Zn,Cu,Mn等が入り、YにはS、Se等が入る)
 また、Cuの所には、Agが入ったり、Sbの所にはAsが入ることによって四面銅鉱はさらに細かく分類されることになっているらしい。あまり細かくしていくと分類化が煩雑になり、意味なさなくなってくるような気がしてならないが。鉱物の世界では、命名する際に組成での50%ルールがあることが知られている。

 なぜこんな変化が起きるのだろうか。おそらく今まで四面銅鉱の類いは、結合の状態の把握が難しいので、結晶をきちんと調べられてきていなかった為だろうと思う。次第に研究されることによってそれが類型化されてきたことによるものだろう。

 ん?

 そうそう、会社で材料開発をしているときに、四面銅鉱が熱電素子として作用すると書かれた文献を見たが、何処へ行ってしまったのかPDFファイルとして持っているはずなのだが見つからない。

 と書いてきて、どんどん違う方向に行ってしまうのでここで止めとこ。

追記

  採集した四面銅鉱は、金属元素としてCuは勿論、鉄、亜鉛が含まれていた。蛍光X線分析で、亜鉛より鉄が多かったと記憶しているので、ここの四面銅鉱は、鉄安四面銅鉱だと判断している。ついでに書いておくと、TrekGEOには鉄安四面銅鉱の産地として秩父鉱山だけしかあげられていない。また、東大電子顕微鏡室のサイト(参考8)を見ると、この産地の四面銅鉱は「亜鉛砒四面銅鉱」である旨が書かれている。注意が必要だ。


参考
1.松原聰,日本の鉱物,学研,p29(2003)
2.宮入増三,水晶(鉱物同志会会誌),28,p27-32(2016)
3a.松原聰,日本産鉱物種,第6版,鉱物情報(2013)
3b.松原聰,日本産鉱物種,第7版,鉱物情報(2018)

  (第7版は改訂版が出版されている。多くの鉱物で変更がなされようだ。四面銅鉱が顕著だったのでないかと。)
4.TrekGEOのサイトで四面銅鉱関連のサイト
 https://trekgeo.net/m/b/52tetrahedrite.htm
 https://trekgeo.net/m/b/51tetrahedrite.htm
5.原田準平,鉱物概論,2版,共立出版(1973)
6.周藤賢治、小山内康人,記載岩石学,共立出版(2002)
7.XRDによる解析については、古くから多くの書物が発行されている。

 例として以下の本を参考に。

 中井泉、泉富士夫,粉末X線解析の実際,第2版(2009)
 なお、中井泉氏は逸見石の報告など鉱物の研究でも知られる人で,2019年まで東京理科大の教授だった。また泉富士夫氏は、千葉石の報告をした現国立科学博物館職員の門馬綱一氏の元上司だ。泉富士夫氏は、(X線解析などでの)リートベルト解析などで日本を代表する研究者だ(った?最近リタイヤしたのかな?)。結晶構造表示のソフト(VESTA)作成でも知られている。

8.東大電子顕微鏡室のサイト

  日本の鉱物 » 電子顕微鏡室/Electron Microscope Section (u-tokyo.ac.jp)

9.泉富士夫氏のサイトは以下の所です。

  泉 富士夫の粉末回折情報館 (verse.jp)