笑って泣いた「大鹿村騒動記」 | むばたまの夜の衣を返してぞ着る

むばたまの夜の衣を返してぞ着る

~いとせめて恋しきときはむばたまの夜の衣を返してぞ着る~
平安時代の歌人小野小町の歌から。
愛しい人にどうしようもなく会いたくてしかたのないときは、
寝間着を裏返して寝るわ
(寝間着を裏返して寝ると恋しい人の夢を見ることができるという説があったそうで)


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公開から2ヶ月、やっと観ることができた「大鹿村騒動記」。
地元の映画館での上映を待っていたら、こんなに遅くなってしまった。
愛之助さん出演の映画「Beauty」が
長野県大鹿村の村歌舞伎を題材にしたものだったので、
この映画のことを知ったときから「ぜひみたい」と思っていた(割には遅い・・・)。


声を上げて笑った。
そして、静かに泣いた。

大鹿村で鹿肉料理店「ディア・イーター」を営む善(原田芳雄さん)は、
この村に300年伝わる「大鹿歌舞伎」で主役を張っている。
この店名「ディア・イーター」=「鹿を食う人」っていうのが相当におかしい。

公演を5日後に控えたある日、
18年前に駆け落ちして姿を消した妻(大楠道代さん)と
善の親友(だったはずの)治(岸部一徳さん)が村に戻ってくる。
妻・貴子は記憶障害を患い、夫を捨てて駆け落ちしたことも、
生活の様々なことを忘れてしまっていた。
治に(貴子を)「返すよ」と言われて善は歌舞伎どころではなくなってしまう。

貴子はたくさんのことを忘れてしまっているのだが、
歌舞伎の台詞は完璧に覚えていた。
大鹿歌舞伎の演目「六千両後日文章」で
貴子はヒロイン・道柴をずっと演じてきた。駆け落ちするまでは・・・。

この騒ぎに性同一障害もリニアも過疎も地デジ化も高齢化も加わって
大騒動・・・。

「馬っ鹿じゃないの!」「馬鹿じゃねえよ、鹿だよ」
みたいな感じのやりとりにかなりハマる。
村役場からの放送中に携帯メールが入り
「メールだよ」が村中に流れちゃう美江(松たか子さん)のあわってっぷりは
「有頂天ホテル」を思い出すようで楽しい。
回り舞台を回しているときに、雷音(冨浦智嗣くん)に告白されて(?)
舞台を回しすぎちゃった柴山寛治(瑛太くん)の狼狽ぶりも可愛いかった。

で、歌舞伎の場面が楽しくて面白くて・・・
調べてみると、「六千両後日文章 重忠館の段」というのは
大鹿歌舞伎だけの演目なのだそうだ。
2007年の公演のときは仁左衛門さんも観劇されたという。
(「Beauty」のロケのとき?)

愛知芸術文化センターで開催される「ふるさと芸能祭」映像が公開されている。
会場が大鹿歌舞伎の舞台ではないのが残念だが、
この演目の全容がわかってとても興味深い。

貴子の父(三國連太郎さん)の語るシベリア抑留の話や
かつての仲間のお墓に木彫りの人形を供えるシーンなど
きゅんと切なくなる場面やせりふはたくさんあるけれど、

涙あふれたのはエンディングロール。
忌野清志郎「太陽の当たる場所」が流れるそのバックには
たぶん、その多くは本編では流れなかった映像・・・(だと思う)
登場人物たちが泣いているシーンが次々に映し出される。

ハンカチの準備が遅れてちょっと焦った。
客電つくのが早すぎる。


DVD化されたらもう一度観たい。「六千両~」を観た上でもう一度。
そして、エンディングをじっくりと・・・。



悲しかったこと。
上演前、「パンフレットください」と言ったら、
「ありません」という答えが返ってきた。
売り切れるはずない。
だって、
この映画館の初日ですよ今日は!
何でもパンフレットは50部か60部か単位で
劇場が買い上げなければいけないので、
そんなに売れるはずないから仕入れてない・・・と。
「え~。でも、『ブラックスワン』はあったじゃないですか、買いましたよ」と私。
「『ブラックスワン』は10冊単位だったからね。」だって。

無理もないかもね。
この日の観客3人!
初日よ初日!しかも土曜日に3人だから。
パンフなくても許してあげる・・・

なんて思えるわけない!


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「チラシなら何枚でもどうぞ」って言われても・・・ねえ。