シン・ベット元長官4人同席インタビュー(その4) 2023/11/25 | プルサンの部屋(経済・世界情勢・株・通貨などを語るブログ)

シン・ベット元長官4人同席インタビュー(その4) 2023/11/25

質問:つまり、あなたは、アラファトが和平交渉のパートナーでも構わないということですか。

シャロム:プラスになるなら、アラファトだろうが誰だろうが、いいじゃないですか。彼がいなくなったら、他の誰かが交代するだけです。パートナー云々している間にも、パレスチナの人々は着実に悪化する状況の中で苦しんでいるのです。

ギロン:私は、アラファトは大きな障害だと思います。過去10年間、イスラエルはいろいろ政府を変えました。タカ派政府、ハト派政府、そしてかなりの譲歩もしてきました。ところがパレスチナ側は、いつも同じアラファトじゃないですか。イスラエル側の首相の点数はともかく、アラファトは落第点ですよ。私はアラファト個人よりも、文書化した原則を信じます。その方がユダヤ人に向いてますし、民主主義的ユダヤ的国家としては、人物でなく、原則の文書化を軸にすべきです。協議事項もアラファトが決めることじゃないです。
 ただ、アラファトが和平への障害だと言うと、まさにテロ対策を最優先させよという主張と同義語になってしまいます。そういう意味じゃないのです。我々がなすべきことは、ちょっと待て、これこそが子孫にこの国を残す一番よい方法だ、これこそが我々に平和と安全をもたらすものだ、と大声で言うことです。人々を説得し、人々に「我々はこれを望む」と言わしめる世論を作ることです。占領地からの撤退を望む、エルサレム問題でも妥協を望む、それこそが我々の安全のためになるからだ、という世論を作り上げることです。

ペリ:私は、イスラエルはアラファトに関してはことごとく誤りを犯したと思います。最近、彼を追放する決定をしましたが、そうすることで、いったん沈んでいた彼にかえって脚光を浴びさせることになりました。アラファトには何かインチキくさいところがあるぞ、何か背後で操っているようなところがあるぞ、と凡人には分からない陰謀があるかのような宣伝を撒き散らしているけれども、実際に陰にあるのはイスラエル政府の誤った決定なのです。
 確かにアラファトは何かにつけ、いろいろ干渉していると思います。それならそれで我々としては、イスラエルにとって一番よい道を進めばよいのです。政府や議会の外から和平を求める声をあげ、片務的な、一方的な撤退をやることです。交渉パートナー云々はもうやめて、自分たちにとって一番よいことだけをやればよいのです。自分たちにとって一番よいことが、最も効果的な安全保障です。
 ガザで大量の軍隊を浪費することをやめること。入植地の3匹の羊と7人の牧童を守る軍隊を減らすこと。その代わり塀を作ればよいのです。塀のルートについては議論する必要があるでしょう。もうすでに隔離壁の位置が問題になっています。いずれにせよ、境となる塀は必要で、我々の防衛範囲をその塀の内側に限るべきです。

ギロン:歴史に残るイスラエル国の国境はレッド・ライン(訳注:占領地を含むパレスチナ全土を指す)に囲まれた地だと思いますが、エジプトとの協定で我々はグリーン・ライン(訳注:1967年6日戦争で占領地を拡大する以前のイスラエル国境。第一次中東戦争の休戦協定で、グリーン・ライン・イスラエルが合意された)へ戻りました。ヨルダン、レバノンとの境も同じです。ラビンやネタニャフが行った交渉も、グリーン・ラインに沿ったものでした。だから、ユダヤ・サマリア地方やガザ回廊におけるわが国の国境はグリーン・ラインであるべきことは明らかです。今問題になっている分離壁は無茶です。塀にならない塀、国境にならない国境を作り上げているのです。

シャロム:分離壁をおかしいと思っています。壁とか塀とか柵というものが成功するためには、二つの条件が満たされなければなりません。一つは、どちらの側の人間もそれを通り抜けないこと。二つ目は、そこの番をする兵士がドイツ人のような厳格な規律に従って行動できること。どちらの条件も不可能です。今建設中の分離壁は、政治的にも安全保障の上からも、将来大きな問題となるでしょう。何故なら、それはパレスチナ人の土地を奪い、何十万人ものパレスチナ人を郷土から引き離してイスラエルに併合して、憎悪を再生産するからです。これは、イスラエル国をユダヤ人の郷土とする我々の利害にも反するものです。
 分離壁は意図することと反対の結果を生み出すでしょう。双方の境となり、二民族二国間の窓口となるどころか、そういう窓口を閉じることになります。パレスチナ人は「お前たちは二つの国を口にするが、現実にやっていることは、南アフリカのアパルトヘイトみたいに、我々をバンツースタンへ封じ込めることじゃないか」と言っています。我々が分離壁を支持すればするほど、パレスチナ人の独立国家の夢は遠のくのです。
 アラブ人がユダヤ世界へやってきたのでなく、我々がアラブ世界へやってきたのです。そのことをしっかり理解しない限り何事も解決しません。たしかにパレスチナ人の教育では、イスラエル国家は存在せず、ユダヤ人を海へ放り込めと教えていますが(訳注:現在のパレスチナ自治政府が発行している教科書では、そういう記述はない。かつてパレスチナ人はエジプト、ヨルダンの教科書を使っていた。その古い教科書では、イスラエルの地図は不在であった。あるユダヤ人団体がパレスチナ自治政府の教科書を「反ユダヤ主義」というデマを流し、当時の米大統領夫人ヒラリー・クリントンがそれに乗って補助金をカットさせた)、イスラエル側の教育も似たり寄ったりです。アラブ人に対する敬意という点では、我々の態度はひどいものです。これは同じイスラエル人同士の間でもそうです(訳注:アラブ系イスラエル人、及びオリエント系ユダヤ人に対する蔑視を指しているのだろう)。イスラエル人、ユダヤ人の間で相互尊重がない状態で、どうしてパレスチナ人に敬意を払えと言えましょうか。
 パレスチナ人を小突き回すことはやめるべきです。ここは通ってよいが、あそこはダメだ、お前は車を使ってよいが、お前はダメだ、といったやり方をやめるべきです。

ペリ:それはGSSの役割じゃないです。首相とか防衛大臣のやるべきことです。仮にディヒター長官が、ガザに原爆を落とせと進言したとしましょう。重要な地位の人物の発言だからといってその通りなるでしょうか。イスラエル国家にはリーダーシップがあるはずです。物事を決定するリーダーシップがあるべきなのです。

質問:分かりました。パレスチナの村や町の封鎖や入植地バイパスの話はさておき、ターゲット・キリングという悪名高い方策は昔からあったのではないですか。今日では、使われ方が異なっているように思えますが。

アヤロン:あれは、以前は心理効果を狙ったものでした。今日のように政治的に決定された戦略ではありません。今日では、ターゲット・キリングを行っているのはGSSではありません。イスラエル国家が一つの政策として行っているのです。

シャロム:テロ対策という口実でやっているのです。テロ防止の何たるかを理解していない人々がやっているのです。そもそもテロは爆撃やヘリコプターで防げるものではありません。むしろ大騒ぎしないことです。我々が静かにしておればテロも少なくなります。

ギロン:以前はテロ退治といえば緊急外科手術でした。今ではHMO(訳注:会員制の健康医療団体制度)です。廉価で一般的な仕事となっています。

シャロム:何故テロが減らないのかというと、みんな大騒ぎするし、それに何より復讐要素が多すぎます。復讐原因を作り続ける限り、テロはなくなりません。

アヤロン:テロ撲滅という行為自体を政府の政治的政策とするのはおかしい。それは治安当局の仕事で、それに任せた方が効果的ですし、安全水準ももっと高まるでしょう。政府の方は、それと並行する形で、政治過程、つまり政治的ビジョンや信念の顕在化に務めるべきでしょう。これはパレスチナ自治政府についても同じです。やがて彼らも自らの国家をもつことになるのですから。



 この会合に重苦しい雰囲気が漂っていたのは、否定できない。
4人の元長官は、自らの発言が何らかの転換の契機になると信じて発言する決意をしたのか、あるいはこういうドラマティックな会合自体が一つの力になると思ったのだろう。
古い考えに揺さぶりをかけ、無関心や絶望で沈黙している民衆を揺り動かすことができると思ったのだろう。
しかし、それでも彼らの発言の隅には、僅かながら絶望感のようなものが感じられたのは否定できない。ペリはそのことを取り上げて話題に乗せた。



ペリ:4人のVIPが集まってイスラエル国へのレクイエムを書いているような雰囲気があります。しかし、そうじゃないでしょう。我々は永年心身を消耗させながら国家に尽くした後に、今自らの意志で、ボランティアとして、ここに集まりました。社会の行く末が心配で、自らも苦しんでいるからそうしたのです。私個人は、シャロムと違って、占領地で行われていることを「破廉恥」だとは思いません。しかし、正すべきことは多くあることは認めます。
 先ほどギロンが「外科手術でなくHMOだ」と表現した大規模で全般的な弾圧行為にこそ問題があると思います。道路封鎖点の兵士やパレスチナ人女性通行人に不必要な尋問や侮辱的行為を繰り返すチェックポイントの女性兵士に、司令官の本当の意図が正しく伝わっていません。恐怖、未熟さ、知性の欠如、あるいは現場指揮官の短慮などが問題を引き起こし拡散させていることもあります。私はいまだに、何故ラマラ市内を巡回する軍戦車が、道路脇に駐車している自動車を踏み潰す必要があるのか、理解できません。
 この部屋から呼びかけましょう。我々が署名した声明書はこういうひどい状態を解決しようと心から願ったものです。
政府も一般民衆も是非真剣に受け取り、考えてくれと、呼びかけましょう。
私個人としても、政府指導層に、これをオープンにきちんと討議するように呼びかけるつもりです。

アヤロン:ユダヤ・サマリアの地とガザ回廊で我々がやっていることの多くは人道に反することです。中にはまったく不道徳というべき行為もあります。こんなことをやっておれば、20年後、30年後、我々は大変な汚名を背負う羽目に陥るでしょう。
 外科手術からHMOになったことよりもっと悪いことは、希望の喪失です。これはイスラエル・パレスチナ両社会について言えます。お互いがお互いに対してやっていることは、時間という脈絡の中に置いて、よりよい未来への過渡期現象と言えないこともないでしょうが、しかし私たちも彼らも、よりよい未来なんか見えないのです。今我々がやっていることの結果として未来が見えなくなっているのです。これが一番恐ろしいことです。だから私は、希望の芽を作り出すことが、先ずもって大切なことだと思います。船長が船の行く先を知らなければ、どの風に乗ったらよいか分からないでしょう。
 そうです、みなさん。海にはいつも風が吹いています。先ず何処へ行くかをはっきり認識しなければ、風を利用することもできません。