シン・ベット元長官4人同席インタビュー(その3) 2023/11/25 | プルサンの部屋(経済・世界情勢・株・通貨などを語るブログ)

シン・ベット元長官4人同席インタビュー(その3) 2023/11/25

ペリ:これは社会現象といっていいでしょう。何故そうなるか、誰かいつか研究すればいいですね。GSSの元長官、軍参謀長、元治安当局員などが、長年の職務から退いた後、何故パレスチナ人との和解を語るようになるのか。多分、そういう要職にいたからではないですか。イスラエルとパレスチナの両社会の客観的条件や、人間やら、戦場の現実などを、びっくりするほどよく知っているからではないですか。

質問:それじゃ、現在の長官、パレスチナ人の村や町の封鎖や道路封鎖などの強化に狂奔しているデヒター長官も、退任したらあなた方と同じになるというのですか。

シャロム:その通り。私は3人の首相に仕えました。自分では意図しないような影響を彼らに与えました。私は同じことを言うのに、まるで異なった反響になるのです。同じ言葉が、「進め」「止まれ」「注意」という異なった意味の信号に変わるのです。もっともその度にいろいろしっぺ返しを受けましたが、いずれにせよ影響力は大きいのです。
 ただ我々の立場の人間は政治的に無色でなければなりません。党派とは一切関わってはいけません。もしある党派の政府に仕えるのが嫌だったら、即辞任すべきです。テロリスト退治の方針が出たら、能力と資源を最大に活用して、全身全霊で任務を遂行するしかありません。だから今のデヒター長官に関する質問発言に、私は快く思わないわけです。デヒターが何をしているって?何もしとらんよ。彼は国家に仕え、国家がすることをしているだけだよ。

質問:どうもすみません。しかし、現職の軍参謀長は、道路封鎖や包囲やパレスチナ人への虐待がテロを拡大させていると言っているでしょう(訳注:モシェ・ヤアロン中将のことを指しているのであろう。彼はタカ派の筆頭だったが、最近ハト派的発言をするように「変身」した)。

ギロン:今日の戦略は、いかに次のテロを防ぐか、ばかりです。それに関して最良の策を提出するのがデヒターの役割です。軍参謀長が、単なる弾圧だけではなくもっと広い観点から、つまり次のテロばかりでなく、テロを生み出す背景を考慮に入れた対策を練るべきだと言ったのは、正しいと思いますよ。しかしそれは、治安の観点から言っているだけです。このように治安だけが政治日程のすべてになっているのが今日の問題なのです。次のテロを防ぐことばかりに腐心し、その泥沼から抜け出すことが政治日程にのらないのです。

アヤロン:当面の緊急予防戦略ばかりで、政権の指導層には有効思考へのバランスがありません。一つ驚くべき例を話しましょう。ネタニャフがワイ川覚書調印を終えて(訳注:1995年9月28日の自治拡大協定<オスロー2>と1997年1月17日のイスラエル軍撤退の具体的計画を定めたヘブロン協定を実施するための覚書調印で、クリントンの勧めで行われた)帰ってきたとき、我々総合諜報・治安機関は撤退に反対の立場でした。何故なら、それは結局戻ることを前提にした引き上げだったからです。本物じゃないことは、当時のイスラエルの安全保障内閣とパレスチナ自治政府のことに熟知している私のような立場からはすぐに分かりました。他にも、すでにお分かりになったような意見を持っている私の目から見て、撤退は間違いだという場面がいくつかありました。

ギロン:私も一つ例を出しましょう。西岸地区7都市からの撤退です。これはあらかじめ定まった時間表(訳注:オスロー2)に従っての撤退でした。当時治安当局の長官だった私は、それは間違いで、まず事前に必要条件を満たしてから、一つ一つ撤退すべきだと言いました。結局政治指導者、故ラビンでしたが、が撤退を決定しました。

ペリ:軍とGSSが意見を異にするとか、意見を変えた者が出てきたということは大した問題ではありません。問題なのは、政治が明確な目標や方向を示さないことです。それがないと、軍参謀長もGSSの長官も混乱し、進むべき道を見失うことになります。
 政府が全面に出て、わが国はこれこれのことを実現したいと言えば、話は違ってきます。政治に方向性がないと、高級官僚は結局自分の領域の仕事だけに凝り固まり、お互いに責任を共有することができなくなります。治安当局はテロ対策のみ、軍部は国家の内的・外的安全保障にのみ専念、他のことは一切不知、という具合になります。こういう融通のなさや官僚主義が現実にあって、人々の視野を狭めています。戦略がなくて、ただ戦術のみがあるのです。
 とはいえ、安全保障体制については脱帽すべきだと思います。こういう限界のある枠組みの中で、見事にやるべきことをやっています。

ギロン:その意味では、ラビンやペレスの時代には、はっきりした方針があったように思います。和平交渉なんかないかのようにテロを叩け、テロなんかないかのように和平交渉を継続せよ、という指針が与えられましたから。

質問:政治的方針といえば、バラク政府にはそういうものがありましたか。

ペリ:私の意見では、なかったと思う。キャンプ・デービッドのあの最後の声明を除いて、バラクが何か明確な方針を示したと思う人がいたら、教えてくれ。

シャロム:(ゲラゲラ笑って)お話しにならんよ。

ペリ:ラビン以降の7年間、どの政府も、国民や防衛軍に国家は何を実現したいのかを示さなかった。だからこそ我々は、状況に精通したものが政府や議会の外側から発議したのを受けて、こうして私的ネットワークを通して集まったのです。しかしこの発議は政治家の無能さのため、真空地帯に置き去りにされようとしています。
アヤロン:ヤアコブ・ペリが言わんとしているのは、政治指導層の最大の過ちは、和平交渉のパートナーの有無議論ばかりに終始している点だということです。私も彼に同感です。レストランやバスの中で一般市民が殺害されている恐ろしい状況を思うと、パートナーがいようがいまいが、我方が片務的行動をとればよいと思います。それしか事態打開の方法はないでしょう。もしイスラエルが明日の朝にでも―私に関する限り、3年前にそうして欲しかったが―一方的にガザ回廊やグッシュ・カティフから引き上げ、ジェスチュアでなく本気で入植地解体をやればいいのです。そうすればきっと、パレスチナ人は交渉のテーブルにやってきます。私は永年パレスチナ人とつきあってきたから、自信をもって断言できます。

シャロム:私も100%ペリの意見に同感します。

ギロン:私も同じです。

ペリ:アラファトが不適切だとか、追放すべきだとか、アラファト以外に適切な交渉パートナーがいるかどうかなどと、ニュースや新聞が盛んに論じていますが、それこそが不適切なことで、大きな間違いだと思います。それにパレスチナの新首相アブ・マゼンに対するイスラエルの対応も間違っています。
質問:この3年間の争いの中で、パレスチナ自治政府の保安部隊を破壊してしまったことはどうです?やはり間違いですか。

ペリ:間違いです。ジブリル・ラジューブに対して行ったことは大きな過ちです(訳注:パレスチナ保安部隊の長で、アラファトの後継者と見なされていた。イスラエルは彼をテロリストと規定。「防衛の盾」作戦でイスラエル軍は、彼の本部を攻撃し壊滅させた。彼は部下に投降を指示。アラファトの不興を買い、任を解かれたといううわさが流れた)。

シャロム:あれは大きな損失です。それにアラファトへのこだわりは基本的にアナクロニズムです。だれが適切か不適切かは我々の決めることではありません。イスラエルの長をシャロンにするかネタニャフにするかを外から指示されて決めることでないように、パレスチナで誰に最高の影響力を持たせるかは、我々が決めることではないのです。ただ現実のパレスチナの政治地図を見ると、アラファトなしで物事が決定できないことは、一つの事実です。