今回の問題は確かに存在する(した)のですが、レアケースなため大半の人々には問題にならないものと思われます。もしかすると同じ悩みを持つ人がいるかもしれないので書き残します。

■どういうこと?
Nuendo6の最終バージョン 6.0.7 をWindows10で長い事使い続けているのですが、ここ2、3年ほど、プロジェクトファイルを開きなおした時に一部のWAVファイルが読めなくなる現象に悩まされていました。昔はこの現象に悩んだ記憶が無いので、てっきりWindows10かHDDをSSDに変更したことによる影響か?と思ったりしていたのですが、検証してみた所、これはBroadcastWAVの特定のMETA情報の有無によるものではないか、と思われます。

具体的な例を見てみます。
44.1kHzのWAVファイルを2本用意して、新規プロジェクト(48kHz/16bit)にオーディオインポートします。WAVファイルとプロジェクトのサンプルレートが異なるので、インポート時に下のようなオプションが出ます。

赤枠内のどちらか、またはどっちにもチェックを入れると、元のWAVファイルからインポート時に変換されたWAVファイル(以下、便宜上"内部生成WAVファイル"と記述します)がプロジェクトフォルダー内にできます。ここでは、「プロジェクト設定に適合」にチェックを入れたので、44.1kHzから48kHzに変換された内部生成WAVファイルが自動的にできます。下記のように2本のステレオトラックが出来て波形が表示されました。もちろん、音も出ます。

441k16b_ME-01 は普通にダウンロードしてきた音楽WAVファイルです。
441k16b_SE_ZOOM_F8-01 はZOOM F8で録音したSEのファイルです。


これを更に、「トラックの変換」機能を使って元ファイルを残したまま、モノラルトラックへ分割してみます。


下の画面のようになりますね。波形も出ていますし、ソロで再生しても各トラックしっかり音も出ます。


ロケの同録をディレクターが編集したものをWAVでもらったりすると、1chがカメラマイク、2chがピンマイクのステレオWAVになっていて、これをモノラル2トラックに分割する、といった使い方を、整音では普通に行います。ここでも、モノラル化した音は内部生成WAVファイルとしてプロジェクトフォルダー内に自動的に保存されます。この時点のプール画面を見てみると、

ふむふむ、/Audio/Split/ というフォルダにモノラル化されたWAVが出来ていますね。すべてのWAVファイルは波形も表示されていて何の問題もなく再生されています。なので、編集したりミックスしたりは普通にできます。ミックスダウンすれば音も別ファイルに正常に書き出されます。よし、今日の作業はこの辺にしておこうか、と、プロジェクトを閉じます。で、再度開くと・・・、


所在不明のファイルが発生している。
エエ、ナンデ??プール画面を見てみる。

さっきまで波形などが正常に表示されていたはずの内部生成WAVファイル3つは、波形が空白になって状況が「?」表示になっています。編集画面上でも灰色のブロックになってしまって波形表示されず、音も出ません。該当のWAVファイルはプロジェクトフォルダ内に存在していますので、読めなくなっているファイルを「所在不明のファイルを検索」画面から「場所」で指定してみますと、

無情にも「形式が不適切」と警告されて読めません。実際にNuendo以外の再生ソフトで問題のWAVファイルを再生させても再生できません。プロジェクトをいったん閉じて再度開くと内部生成WAVファイルが読めなくなるこれが今回の取り上げる問題です。

■原因を追究する
さて、さきほどの画面でも2つのWAVファイルのうち、上のほう、音楽のWAVは再度開いた際もちゃんと波形が出ています。色々調べてみた結果、この現象、私の環境においては手持ちの「ZOOM F8」という録音機で録音したファイルで起こることがわかりました。サンプリング周波数やビット数、ステレオ・モノラルには関係がありません。使っているSDカードにも左右されません。ZOOM H4で録音したファイルでは起こりませんでした。

インポートしたWAVファイルをMediaInfoで比較してみます。
これは、正常な内部生成WAVファイルができる441k16b_ME.WAV


こちらは問題が起きるZOOM F8で録音した441k16b_SE_ZOOM_F8.WAVで、META情報が表示されています。ZOOM F8はBroadcastWAV形式でファイルを作り、その中にはファイルの作成者や、録音時のタイムコード等の情報が含まれます。


これは、再生異常になる内部生成WAVファイルを読ませたものです。赤枠部分に表示されるはずのPCMのフォーマット情報が出ない反面、元のF8ファイルからのMETA情報は表示されています。正常に再生はされないものの、データ自体は書き出されています。変換されたのでfsは48kHzでモノラルのはずですが、META情報は最初のファイル生成時のままで食い違っています。この辺が原因なのだろうか?


なお、ここで注意すべきことは、読めないのは内部生成WAVファイルだけであって、元のF8の録音ファイルはちゃんと再生されて音も波形も出る、ということです。元のF8のWAVファイルから「サンプルレートを変換する」「トラックの変換を行う」「WAVファイル(イベント=サウンドクリップ)に対してプラグインの適用をして、その結果を反映させる」といった内部生成WAVファイルの書き出しをして、かつプロジェクトを一旦閉じて再度開かないとこの問題は発現しません。ちなみに、一旦閉じる前には波形表示や再生が正常ですが、この段階で内部生成WAVファイルを別の所に保存してもダメです。作った時点でWAVは既に壊れているが、閉じるまでは一時作業用の別ファイルになっているようなのです(同じ処理を大量にやる場合が多いので、さすがにオンメモリですべてやっているとは思えない)。正常動作している間に「選択イベントから独立ファイルを作成」しても結果は同じで、ここで作成した独立ファイルも後から読めなくなりますが、音が出ているうちにオーディオミックスダウン(バウンス)で別ファイルに書き出したものはプロジェクトを再度開いた際にも正常です。

BroadcastWAVファイルに含まれるMETA情報、BEXTチャンク、iXMLチャンクが悪いのでしょうか?試しにNuendo6自体でBEXTチャンク、iXMLチャンクが含まれるWAVファイルを作って読ませたり、既存の別のBroadcastWAVファイルを読ませたりしてみましたが、この問題は起こりませんでした。また、これはNuendo6だけで起こる現象ではなく、Cubase5でも起こりました。しかし、一方でCubase10.5では起こりませんでした。つまり、Nuendo6ではZOOM F8が書き出す新しいBroadcastWAVのMETA情報の処理の一部に対応しきれていないが、その後のバージョンではこの問題が解決している可能性が高いと思われるのです。さっさとNunedo10にしろし。

BWF Meta Edit (http://bwfmetaedit.sourceforge.net/)
というソフトでBroadcastWAVのMETA情報が閲覧編集できるので、これを使ってF8のファイルを見てみました。

Tech情報


Core情報(の一部)



これを一部消して反応を見ようとしたのだが、なぜかうまく消えてくれない。


昔からあるWAVから不要なMETA情報をむしり取るソフト
StripWAV (https://www.lightlink.com/tjweber/StripWav/StripWav.html)
を使ってみます。


このソフト、インストール時の初期設定のままだと開いたファイルからMETA情報をむしって保存する所まで一気にやってしまうので、META情報消したくない場合はうっかり放り込まないように注意しましょう。Optionsから"Auto-Strip On Open"のチェックを外し、Quick Strip Optionの設定で、下図のように Quick Strip をしないように設定してから使います。


Quick Stripのままだと、「META情報消すとファイルの頭に0.186秒の無音が付くけどいい?」という警告が出て実際に時間が増え、0.186秒音が後ろにズレてしまいます。Clean Quick Strip Onlyか、Slow Stripだとズレません。

META情報を取り去ったWAVをインポートした結果、ZOOM F8で録音したWAVファイルをインポートしてから閉じて開いても、ちゃんと表示され内部変換WAVファイルの問題は発生しません。プール画面でも正常です。


しかし、この結果からすると、同じMETA情報形式のWAVファイルならZOOM F8のものだけでなく他のファイルでも同様に起こるはずです。かつ、META情報の中には個人的に非常に重要なタイムコード情報が入っています。現場ロケでカメラのタイムコードとシンクロさせたり、Nuendoに取り込み後、録った時間軸に沿ってクリップを自動で移動させたり(「移動→元のポジション」)する際に必要な情報です。なので、できれば消したくない。また、記事としてより正確を期するなら、RIFFのWAVEフォーマットとその拡張仕様、BWF-Jの仕様を理解してより細かい検証をするべきでしょうが、実用上、今回の追求はここまでで。やはり、さっさとNunedo10にしろという神の啓示だな。

(追記)この問題は少なくともNuendo11〜12では発生しなくなっています。

(がんくま)