https://www.presonus.com/products/MP20/media

かなり以前から所有している機材ですが、ふだん録音をしているスタジオではAMEK 9098DMAのほうが評価が高く、ラジオ録音のようなチャンネル数が必要な時はTOA RH-200に活躍の場を奪われ、我が家ではもっぱらヘッドホンアンプとして日陰の人生を送っています(そのほうが利用頻度自体は高いけど)。しかしながら、これの便利な所は2chミキサー機能やSEND/RETURNが付いていて小回りがきく所です。

■だいぶ前から感じていた問題点
1.ヘッドホンアウト(PHONES)のボリュームに左右偏差(ギャングエラー)があって結構ひどい。
2.MASTER L/R OUTと 2ch CHANNEL OUTにハム音が乗る。
3.ヘッドホンアウト(PHONES)にも両chハム音が乗る。
4.1chのホワイトノイズが2chに比べるとやや耳につく。

1.については購入当時からの問題で、マイクプリとして使っている頃は気にしなかったのですけれど、ヘッドホンアンプとして使うようになると結構なストレスです。2~4については経年で出るようになった(ように思う)ので、部品の劣化(電解コンデンサーかFET?)ではないかと思われます。これももう製造から20年選手ですからね。

■PHONESのボリューム
11時から15時位はさほど差がないのですが、7時から11時位はR側がはっきりと小さいです。なお、MASTER L/R OUTPUT(以下マスター出力)側のボリュームは左右偏差がありません。分解してみたところ、ボリュームにC10Kと書かれており、Cカーブ10kΩの2連という、店頭ではあまり売っていないボリューム部品であることがわかりました。



私にできる修理方法を考えてみますと、

①同型でBカーブ20KΩの2連ボリュームを買ってきて、追加の抵抗を2本抱かせて疑似Cカーブのボリュームに改造し、部品を交換。
【参考】
擬似Cカーブ可変抵抗の定数設計(ねがてぃぶろぐ)
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-527.html
LTspiceで擬似Cカーブ可変抵抗 (ねがてぃぶろぐ)
http://gomisai.blog75.fc2.com/blog-entry-352.html

②現在付いている部品に補正抵抗を追加してギャングエラー解消を試みる。
【参考】
2連ボリュームの左右アンバランス補正(私のアンプ設計&製作マニュアル)
http://www.op316.com/tubes/tips/tips21.htm

そもそもヘッドホン端子なので「偏差無く適当な音量で聞こえさえすれば良い」ということであれば、新品の10KΩB型ボリュームをそのまま付けても良いかなと思います(使い勝手は悪いだろうけど)。しかしここでは②案を試すことにしました。良く参考にさせていただいているぺるけさんのページに紹介されているもので、上記のリンク先で公開されているExcelシートを使って、補正抵抗値を簡単に算出することができます。



抵抗値を測定し、Excelシートでシミュレートした結果(ぺるけ氏のシートはA型やB型を想定しているのでC型だとグラフが一部隠れてますが)、10KΩの抵抗を追加すれば良いことがわかり加工しました。実装の都合で抵抗はここへ配置。


ところで、MP20のつまみって見た目がサトーパーツのK-5424かK-5432に似てますね。

抵抗追加の結果、10時から14時については表の通りになり改善しました。7時から10時についてはぺるけ氏の説明にあるように改善しません。とりあえずこれで良しとしましたが、将来抵抗値が揃っていてシャフトの加工が不要なB型20KΩ2連VRが見つかったら①のパターンを試すかもしれません。

■ハムノイズ
MP20の電源部は自作派にもお馴染みのLM317/LM337を使った定電圧電源です。まずはノイズの状況を調べます。

1chのチャンネル出力にはハムノイズが無いが、高域寄りのホワイトノイズがやや大きい。
2chはハムノイズが乗っているが、ホワイトノイズのレベルは1chより低い。

ハムノイズはヘッドホンにもマスター出力にも2chの単独モノラル出力(以下チャンネル出力)にも乗りますが、L/Rボタンを押さなければヘッドホンには出ません。ヘッドホンの回路はまともということか。チャンネル出力のノイズをMOTU MicroBookのライン入力に入れて内蔵FFTで見てみました。


ノイズレベルはMP20の増幅度Maxで

49.1Hz -57dB位
148.3Hz -50dB位
240.5Hz -52dB位
447.7Hz -51dB位
550.8Hz 小
778.1Hz 小
...

ほぼ50Hzとその3倍、5倍・・・の高調波なので、やはり電源起因のハムのように思えます。大元の電源回路の波形を調べるか、コンデンサを交換してみて、それでもノイズが消えないようであれば、大量に使われているアルミ固体電解コンデンサーを疑うことになります。まずは電源電圧を測定。

AC入力
100V(101.95V)

DC出力
-18V -18.08V
+18V +18.11V
+48V +42.97V

DC波形を、この時初めて導入したUSBオシロスコープで見てみたのですが、

うわーわかんねー。旧型のブラウン管式アナログオシロに慣れている身としては、問題があるノイズなのか、それとも表示が細かすぎるだけなのか直感的にわかりにくいですね。慣れん。

測定に際して基板を眺めていたら、ヘッドホンボリュームの後ろにある電解コンデンサがパンクしていました。25v 470uFのルビコンPKで、パンク時の容量は269.9uF ESR=0.26Ω。


部品箱の中に全く同じルビコンPKの在庫があったので即交換しました。今回記事を書くにあたって、ちょっと前に開けた時の写真を見たら膨らんではいますが破裂はしてません。


交換後にヘッドホン出力をモニターすると、1chについてはハムノイズが完全に消えました。しかし2chには乗ったままで、チャンネル出力にもマスター出力にも乗ったままです。パンクしていたコンデンサもハムの原因ではあったが、それとは別の原因もある、ということですね。ただし、ハムが乗っているとはいっても、音声信号を入れて普通の音量で使っている限りは全く問題にならないほどの微小なレベルなのですが、気がついてしまうとやはり気になるものは気になります。沼だ。

MP20の回路図は公開されていません。基板を見て実際に使用されているコンデンサを調べます。


以前修理したLucid 88192を思い出し、なんとなくアルミ固体電解が怪しいのかなーと思いつつ、その数の多さと作業の手間を考えると二の足を踏み、共用部分からリキャップ作業に着手。とりあえず電源の自立型電解、レギュレーターIC周りの平滑用、ヘッドホンアンプ周辺とLED基板、2N4392+5534のヘッドアンプ部も、アルミ固体電解ではない一般の電解コンデンサは新品に交換しました。

ただし、カップリング用のコンデンサー(ニチコンVP無極性)は、ハムの原因であると思えなかったので交換せず。自立型電解は元がニチコンLQでこれを現行品のLSに、他はニチコンPLを東信UTWRZかUTESに、ヘッドホンアンプ部のNIC NRSA(青)はニチコンMFに、ヘッドアンプ部電源のニチコンVRはルビコンPKに交換しました(C2/C12の100uFは2N4392の電源なので、オーディオ用にするともっと音に高級感が出るかもしれない)。+48Vのファンタム回路用の電解の耐圧は63V品でしたが、実装面積が狭く、丁度良い耐圧と外寸のものが無かったので、やむを得ずニチコンPLをUTWRZの50V品へ変更し、マイク入力部分のELNA RE2はニチコンHEに交換しました。

コンデンサ交換後の電源電圧は、

DC出力
-18V -18.10V
+18V +18.10V
+48V +46.37V

しかしヘッドホンで出音を聴く限りでは、残念ながら交換前とノイズの変化が無い。しゃーない。腹を決めてアルミ固体電解を交換するしかないか。

(つづく)