父の遺骨が
自宅に帰ってきた
慰霊写真が
あまりにも自然で
あまりにもいい表情だから
また普通に
返事をしてくれるような錯覚
ただ、ただ
それを眺めて
ぼんやりと
苦しかった闘病生活を
思い出していた
最期は
苦しむことなく
本当に眠るように逝ってしまった
呼吸のリズムに
だんだんと間隔ができ
そのうちに
そっと止まった
父の生き様から
目をそむけることなく
最期までそばにいることができた。
泣いても
泣いても
父は戻らないけれど
一生分の涙が
こぼれたんじゃないかと
思うほど
泣きじゃくったわけでも
泣き崩れたわけでもなく
黙ってただ涙した
父はこの病気のことを
最期まで
うちあけなかった
仲のいい友達
職場の同僚
釣り仲間
すべてに対して
肺癌だと
告げることはなかった。
いつも隠すように
ごまかして
外部との距離を置いていった
弱りゆく自分
変わりゆくであろう自分を
人には絶対に見られたくない
がんだと知ると
人は
この人死ぬんだ
可哀想に
って、そんな目でみられたくないと。
他人から距離を置かれる前に
自分から距離を置いていった。
だから
葬儀も家族葬で執り行われた
葬儀が終了してから新聞に載せたので
自宅には
父の友人たちが
焼香に来て下さっている。
亡き父に
沢山の人が駆け付けてくれている今
このことを父に伝えたい
みんなきてくれてるんだよ
って心の底から
伝えたいと思った
父の友達だけには
肺癌と闘っていることを父に内緒で
打ち明けてしまおうかと
思ったが
それは思いとどまった。
プライドが高く
自分の弱みを人に見せたがらない
父だったから
今こうして
闘いを終えたから
立派だった
闘病の記録を
母の口から
父を偲ぶ人たちに
語っている