彼女は、
300mくらい離れて、
桜の木が小さく見えると、
それを、
目の中に入れてしまったんです。
ありえないですよね?
でも、
300m先にあった満開の桜の木が、
根こそぎ、
なくなっているんです。
彼女は、
目玉のない目で、見上げるようにして、
「ほんとうに、満開ですね」
って言っています。
ところが、
次の瞬間、彼女が、
顔をゆがめます。
「痛いっ・・」
「どうしたんですか?」
「目にゴミが入ったみたい・・・」
「桜の木ですよ!
今、入れたでしょ?」
「痛い・・痛い・・」
「桜の木なんか、入れるからですよ」
「取って?」
「桜の木を、ですか?」
「目の中で、ゴロゴロしているの」
彼女は、
自分でも、薬指を、目の中に入れて、
桜の木を取ろうとします。
「・・・・どこにあるのか、わからない。
見てくれますか?」
目を閉じて、
僕を見上げるんですけど、
まるで、
キスして?って顔なんです。
片思いの胸の奥が、
甘く切なく痛みます。
「・・・じゃ、開きますよ?」
僕は、
彼女の顔を、
両手で、押さえます。
小さな、かわいい顔です。
親指で、
彼女の目蓋(まぶた)を
めくってみます。
中は、
ピンク色の襞(ひだ)のように
なっています。
もちろん、
穴が開いています。
目玉がないからです。
「・・・・桜の木、どこだろ?」
「見えませんか?」
「もっと奥かな?」
「指を、入れてみて?」
「いいんですか?」
僕の手の中で、
彼女が、うなずきます。
それで、
中指を入れてみます。
濡れて、
ねちょねちょしています。
指を動かして、
さぐるたび、
彼女が声を出します。
「あっ・・あっ・・・」
「痛いですか?」
「ううん・・・いい」
「いい?」
「気持ちいいです」
「気持ちいいんですか?
痛くないんですか?」
「もっと奥まで入れて?」
中指の根元まで、
入れてみます。
「あっ・・・・あ・ん・・・」
声が、色づきます。
桜の花びらが舞うかのようです。
ー つづく ー
何の話でしょ?![]()
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