ウンチなんて、
他人(ひと)には知られたくない秘密です。
他人(ひと)が見ている前で、
できないでしょ?
そのうえ、
私、24歳の女です。
恥じらいだって、あります。
でも、
19歳の男の子と、
背中と背中がくっついちゃったんです。
このままだと、
彼の前で、
(実際は後ろですけど)
ウンチすることになるんです。
「それで、どうするの?」
彼は大学生で、
哲学を勉強しているんですけど、
私たちが言葉だって、
言うんです。
それも、わかりませんよね?
でも、
わからないと、
このままらしいんです。
「まず、
ひとつじゃないってことが、
他人(ひと)を創ったって、
理解することです」
「他人(ひと)って、創れるの?」
「意味が、創るんです。
ひとつじゃないって意味が、
他人(ひと)ってことです」
ウンチ問題があるので、
私は必死で理解しようとします。
「他人(ひと)って、
ひとつじゃないって意味なのね。
それで?」
「この世界に、
身体や物があるのは、
ひとつじゃないって意味の
他人(ひと)が見ている世界だからです」
「なんか、複雑ね?」
「複雑なのは、
物を、物と見るからです。
高次元の存在たちは、
物を、言葉として見るから、
意味を捉(とら)えることができるんです。
意味を捉えるって、
単純にできるってことです」
「高次元の存在ねぇ・・・」
彼が言うには、
高次元の存在には、
ベッドが、
ベッドという言葉にしか
見えないらしいです。
グラスは、グラスという言葉にしか、
テーブルは、テーブルという言葉にしか、
見えないらしいです。
もちろん、
私には、
グラスは、
透きとおったガラスの器(うつわ)に
見えますよ?
でも、
高次元の存在には、
そうは、
見えないらしいんです。
「僕らには、
他人(ひと)って、
客観的に存在しているように見えますけど、
高次元の存在には、
自分ではないって、意味でしかありません」
「他人(ひと)が、
自分じゃないってことくらい、
私だって、わかるわよ?」
「意味として、ですよ?」
「どういう意味?」
「つまり、
他人(ひと)って、
自分を創るために、創ったんです」
「はぁ?」
「自分を創るために、
創った他人(ひと)の世界の中に、
閉じこめられてしまっているのが、
僕らなんです」
私は、全身で、ため息をつきます。
「・・・私、
あなたの前で、
ウンチしないといけないかも」
「この世界が、
言葉だってわかれば、
意味がわかります。
その意味は、
自分を創ったってことです。
ひとつじゃないってことです」
私は、
わからな過ぎて、泣きそうです。
「だから、何なの?」
「高次元って、意味なんです。
低次元が、具体的な物です」
「それで?」
実際、私は泣き出します。
彼の前で、
ウンチするのがイヤだからです。
涙が出るのは、
きっと、
彼のことが好きになったんです。
「ですから、
他人(ひと)って、
自分を創るために、創ったんですよ。
つまり、
自分が無ければ、
他人(ひと)も無い」
「自分が無ければなんて、
できるわけないでしょ?」
「僕らは、言葉なんです。
意味なんです。
自分だって、
自分という意味でしかないんです。
それが、
わかれば、
閉じこめられているこの世界から
出ることができるんです」
残念ですけど、
結局、
私、彼の前で、ウンチしました。
彼が言うには、
それが、
閉じこめられている証拠らしいです。
私だって、
こんな世界から、
出られるものなら、出たいです。
だって、
私、女なんですよ?
好きになった男の人の前で、
ウンチなんてしたくないんです。
the end
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