たとえば、
トイレに入っているときに、
玄関のチャイムが鳴らされることって、
ありますよね?
誰だろ?って思いますけど、
急には、
出られない。
申し訳ないけど、
仕方ないって、思っていると、
また鳴らされる。
大事な用事かしら?
急いで、出ようかしら?
でも、
大抵、急いで出ても、
出たときには、
いなくなっている。
そう思って、
諦(あきら)めようとすると、
また鳴らされる。
このときは、
さらに、鳴らされました。
それで、出ることにしたんです。
布団の中からです。
トイレじゃないんです。
私は90歳で、
体調を崩して、
それ以来、寝たきりです。
息子の嫁に介護されています。
その嫁が留守らしいんです。
でも、
チャイムをしつこく鳴らされて、
出ようと思ったんです。
玄関に出てみると、
ランドセルを背負った男の子です。
小学校2年生くらいです。
元気よく、私に言います。
「迎えにきたよ?」
学校に登校するのに、
迎えに来たらしいです。
「ごめんね。
家(うち)には、子供がいないのよ」
「天国だよ?」
「そっちのお迎え?」
「うん」
考えてみれば、
寝たきりで、
動けないはずの私が、
玄関まで出られたっていうのが、
ヘンです。
とうとう、
お迎えが来たのねって、
思います。
覚悟を決めます。
「ちょっと、
待っててもらえる?」
鏡を覗いて、
髪くらいは梳(と)かしたいです。
ところが、
鏡を覗いてみると、
そこに映っているのは、
やはり、
小学校2年生くらいの女の子です。
顔を触ってみると、
私を触っています。
足を見ると、
子供の足なんです。
その足で、
部屋に駆け込むと、
パジャマを脱いで、
服を着て、
赤色のランドセルを背負います。
勢いよく、
男の子のところに、
戻ります。
でも、
ふと、我に返ります。
「・・・私、
90歳のお婆さんのはずなんだけど?」
「だから、迎えにきたんだよ」
「え?
天国って、
ランドセルを背負って行くの?」
「ここが、学校だったからな。
勉強しただろ?」
「人生の?」
「そのランドセル、
重たそうだよ」
たしかに、
背負ったランドセルが、
ずっしりと重いんです。
ー つづく ー
寝たきりでも、
夢の中では
駆け回っているんでしょうか![]()
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