「ショッピングモールの、

どの鏡に、

ぶつかったんですか?」

 

 

彼女は、

たぶん、鏡の中の幽霊です。

 

 

鏡に、

ぶつかったとき、

鏡の中に入ったと思っているんです。

 

 

「とんかつ屋さんだったかしら?」

 

 

「とんかつを食べていたんですか?」

 

 

「食べたいなぁ~と思っていて・・・」

 

 

「ぶつかったんですか?」

 

 

「ブタが歌っている絵の看板で、

食べられるのに、

歌っているのよね」

 

 

「そう考えていて、

ぶつかった?」

 

 

鏡の中で、

彼女が首をかしげます。

 

 

スーパーマーケットの

男子トイレの鏡なので、

客が入って来るたび、

彼女は、

鏡の奥に隠れて、

僕は、

一旦(いったん)、トイレを出ます。

 

 

人が、

いなくなるのを待って、

トイレに入ります。

 

 

「じゃ、

とんかつ屋さんの、鏡の前で、

待ち合わせしますか?」

 

 

「とんかつ屋さんのところに、

鏡なんか、

あったかしら?」

 

 

「じゃ、どこなんですか?」

 

 

彼女は、とてもかわいいです。

 

 

幽霊らしくないくらい

無邪気に笑います。

 

 

「鏡に、ぶつかったのが、

恥ずかしすぎたから、

どこだったか?思い出せないの」

 

 

「とんかつ屋さんは?」

 

 

「食べられなかったのが、

心残りなのかしら?」

 

 

「じゃ、やっぱり、

とんかつ屋さんの店の鏡で、

待ち合わせましょう。

 

いいですか?」

 

 

「でも、

ブタが歌っている看板の店って、

そのショッピングモールだったかしら?」

 

 

「違うんですか?」

 

 

「今、

思い浮かんだの。

 

やっぱり、心残りなのかもしれない」

 

 

「どっちにしても、

人が通る鏡の前では会えないから、

男子トイレに、しますか?」

 

 

「女子トイレにして?」

 

 

「僕が、捕まっちゃいますよ」

 

 

「でも、

男子トイレで待ち合わせって嫌だなぁ」

 

 

「だったら、

なんで、このスーパーマーケットの

男子トイレに現れたんですか?」

 

 

「運命じゃない?」

 

 

「運命?」

 

 

鏡の中で、

彼女が照れます。

 

 

「私たち、

出会う運命だったってこと。


あなたが、いたから、

きっと、私は、来れたと思うの」

 

 

でも、

彼女は、鏡の中です。

 

 

僕は、

喜んでいいのか、

わからないんです。

 

 

 

ー つづく ー

 

 

 

 本当の心残りは、

恋をしたかったってことじゃないでしょうかウインクラブラブ