横断歩道側の信号が、

青に変わって、

交差点を渡る人たちに、

僕は、助けを求めます。

 

 

でも、

交差点の真ん中で、

揉み合っている僕らを、

みんな、

遠く、避(よ)けて、

渡ります。

 

 

彼女は、僕に、

馬乗りになったまま、

一緒に、

クルマに轢(ひ)かれて

死ぬって言うんです。

 

 

どうせ私は、ブスよ!

 

中学校でも、

さんざんイジメられたわ

 

 

なんて?

 

 

よく、そんな顔で、生きてるねって

 

 

あぁ・・・・・

 

 

僕は、

やっと、事情が飲み込めます。

 

 

「じゃ、記憶が蘇ったんですね?

 

 

あなたも、言ったでしょ?

 

 

それ、トラウマですよ。

 

心の傷です

 

 

自分で、鏡を見ても、

思うもの。

 

よく、生きてるねって

 

 

そんなにカワイイのに?

 

 

どこが、カワイイのよ

 

 

言葉を、吐き捨てます。

 

 

彼女、片方のまぶたが、

二重(ふたえ)で、

眠たげに見えるんですけど、

たぶん、苦悩の蓄積です。

 

 

心の傷に、苦しんでいるんです。

 

 

交差点の真ん中で、

こんなことをしているのも、

死にたいからじゃないですか?

 

 

だって、死にたくなる顔だもの

 

 

僕は、言葉に、力を込めます。

 

 

あなたは、カワイイですよ。

 

すごくカワイイです

 

 

自分の顔くらい、

自分が1番よく、わかっているわよ!

 

 

彼女が、間近で、歯を剥きます。

 

 

本気で、噛みつくつもりです。

 

 

だったら、

右って、あると、思いますか?

 

 

いきなり、何なの?

 

 

ないんですよ

 

 

右も、左も、わからないの?

 

 

左があって、右なんです。

 

右だけって、ないんですよ

 

 

何が言いたいの?

 

 

それだけで、あるものって、

ないってことです。

 

誰かから見て、

そうだって、だけなんです

 

 

私の顔は、

誰が見たって、ブスよ

 

 

だったら、猫が、あなたを見て、

ブスって思いますか?

 

相手に、よるんですよ。

 

そう思う人がいるってだけなんです

 

 

そう思う人がいれば、充分でしょ

 

 

そんなもの、ないのに?

 

ブスってもの自体は、ないんですよ

 

 

 

ー つづく ー

 

 

 

 

醜形恐怖症なんですねショボーン