片側3車線の、右折レーンの前で、
僕と、彼女は、
倒れて、もつれ合ってます。
右折待ちのクルマが、
右折できないでいます。
「僕らは、
迷惑になっているんですよ?」
「だったら、さっさと謝ってよ!」
「僕が何をしたって言うんですか?」
「私のこと、ブスって言ったでしょ?」
「言ってないですよ!
あなたは、ブスじゃないんですから!」
激しく、クラクションが鳴らされます。
それでも、
彼女は、退(ど)こうとしないんです。
僕も、彼女の腕を放すと、
引っ掻かれるので、
起き上がることもできません。
そうしているうち、
横断歩道側の信号が、
青に変わります。
みんなが渡って来るので、
クルマも、クラクションを鳴らせません。
「あぁ・・・やっと静かになったわ」
「とにかく、
交差点を渡ってから、話しましょ?」
「あなたが、
さっさと、謝ればいいだけよ」
「ビンタされたのは、僕ですよ?
何も言ってないのに」
「言ったでしょ?」
悔しいですけど、
たぶん、彼女はキチガイですから、
ここは、僕が謝るしかありません。
「・・・許してください」
「許さないわよ」
「謝ったじゃないですか?」
「謝ってないでしょ?」
許してくださいっていうのは、
謝ったことにならないんでしょうか?
「・・・・じゃ、ごめんなさい」
「じゃ、って何よ?」
交差点を渡る人たちが、
僕らを見下ろして行きます。
僕は、彼女に、
馬乗りにされています。
「・・・・・ごめんなさい」
「認めるのね?」
「認め・・・・ます」
彼女が、勝ち誇っています。
「ちょっと、自分がカッコいいからって、
人のこと、バカにするもんじゃないわよ。
わかった?」
「僕、カッコよくないです」
だって、
交差点の真ん中で、女の子に、
馬乗りにされているんですよ?
カッコいいわけがないです。
「カッコいいわよ」
「どこが、ですか?」
「イイ男よ。 男前よ」
僕は、横断歩道の、路面に、
後頭部をこすりながら、
首を傾げます。
「僕が、男前に見えるんですか?」
「自分だって、思っているくせに」
「思ってないですよ。
思ったことないです」
「どうしてよ?」
「どうしてって・・・・
見れば、わかるじゃないですか?」
彼女が、馬乗りになったまま、
僕を、じっと見つめます。
ところが、信号が変わります。
また、激しく
クラクションが鳴らされるんです。
ー つづく ー
ビンタされて、謝るって、
つらいですね![]()
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