交差点の真ん中で、
20歳くらいの女の子に、
いきなり、ビンタされます。
それも、2回も、です。
さらに、
引っ掻こうとします。
細い手の、爪が、
尖(とが)って、
引っ掻かれたら、
きっと、血だらけになります。
一緒に、
交差点を渡っている人たちは、
おそらく、
痴話喧嘩の真っ最中だと、
思っています。
誰も、助けてくれません。
「やめてください!
ここ、交差点の真ん中ですよ?
とにかく、渡りましょう」
「逃げるの?」
「だから、交差点の真ん中なんですよ。
ここに、
いるわけにはいかないでしょ?」
「呼んだのは、そっちでしょ?
そこのブスって」
「呼ばないですよ!」
「私だって、びっくりしたわよ!
いきなり、ブスって呼ぶから」
「僕じゃないですよ!」
「私が、振り向いたら、
あなた、見てたでしょ?」
「あなたが、振り向いたから、
僕は見たんです」
「そしたら、
よく、そんな顔で、生きてるねって、
言ったじゃないの!」
「言ってないですよ!
妄想です。
頭、おかしいんですか?」
「そうやって、またバカにする!」
それで、
気が狂ったようになって、
引っ掻こうとします。
たぶん、
本当に、気が狂っています。
きっと、
ちゃんと、話しても、ムダです。
それで、逃げることにします。
ところが、
彼女が、ぽろぽろと、
悔し涙をこぼします。
女の涙に、
男って弱いですよね?
つい、やさしくします。
2回も、ビンタされたのに、です。
「いや・・・わかりますよ?
そんなこと、言われたら、
誰だって、怒ります。
でも、僕じゃないんですよ。
信じてください」
ところが、
彼女は、
手首を押さえている僕の手に、
噛みつこうとするんです。
仕方なく、
彼女を突き飛ばします。
彼女は、引っ繰り返ったんですけど、
助けたら、
同じことの繰り返しです。
それで、
踵(きびす)を返して、逃げました。
でも、
信号が変わったあとでした。
クルマに轢かれそうになります。
あわてて、
後ろに、跳び退いて、
転んでいる彼女につまづいて、
僕まで、引っ繰り返るんです。
ー つづく ー
交差点の真ん中で、
目立つでしょうね![]()
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