懐(ふところ)に、
たくさんの石を抱いて、
水に飛び込んで、
もがいていましたら、
目が覚めました。
「・・・・・夢か」
がっかりです。
せっかく、
わたしの力を使ったのに、
夢だったんです。
でも、夢にまで見るくらい、
わたしは、
わたしの力を使いたかったのです。
こんな無力のわたしにだって、
わたしを無くす力だけは
あるはずだからです。
それで、
わたしは、父に見つからないように、
駆け出すと、
また、たくさんの石を、
懐(ふところ)に抱いて、
今度こそはと、
水の中へと飛び込みました。
水の中で、苦しくて、
もがいていますと、
また、
はっと、目が覚めます。
「え?
また、夢なの?」
仕方なく、
もう一度、飛び込みます。
ところが、また夢です。
何度、やっても、夢です。
やがて、
気づきます。
「・・・・・夢じゃないのかも」
わたしに絶望が訪れます。
わたしが、唯一、
頼りにしていた力が、
わたしを無くす力だったからです。
これで、
あの酷(ひど)い父に勝てると、
思っていたのに、
勝てる望みが
無くなってしまったのです。
わたしは、身体を震わして、
泣きました。
これまで、
数え切れないほど、
泣いてきましたけど、
本当に泣くとは、
このことかと思えるほど、
泣きました。
売られるのが嫌で、
泣いているんじゃないのです。
悔しくて、泣いているのです。
力のある者に、
理不尽に虐(しいた)げられて、
怯(おび)えることしかできない
ことが悔しいのです。
売られた方が、
もう父の顔色も見なくて済むので、
楽かもしれません。
どんな苦労が待っていたとしても、
これまでの苦しみを思えば、
極楽かもしれないです。
ところが、
覚悟を決めて、
家に戻ってみると、
父が、わたしを、見ません。
母や、妹には、
当たるんですけど、
わたしには、当たりません。
見えないんです。
わたしは、呆然としました。
どうも、死んだらしいのです。
ですが、
死んだからって、
無くなるわけではなかったのです。
ー つづく ー
それで、
幽霊っているんですね![]()
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