僕が、20歳のときです。
兄の奥さんから、電話があります。
「猫が欲しいって言っていたでしょ?
仔猫が生まれたんだけど、
どうする?」
それで、僕、もらいに行きます。
ところが、少し前なら、
兄夫婦は、近くに住んでいたんですけど、
今は、遠く離れた村に移住しています。
兄は、会社を辞めてしまって、
農業を始めたんです。
僕は、クルマで、高速道路を走って、
さらに、山の中へと入って行きます。
こんなに遠いのかって、
驚きます。
途中、温泉があったので、
一休みしようと思って、
入ります。
ところが、誰も、いません。
入り口に、箱が置いてあって、
200円と書いてあります。
200円を入れて、
入ります。
脱衣所も、畳一枚くらいです。
中に入ってみると、
水道も、シャワーも、ありません。
ところどころ、苔のある、木の枠の、
湯船があるだけです。
源泉掛け流しです。
手桶で、掛け湯して、入ります。
温泉に浸(つ)かりながら、
兄さんは、こんな所に住んだんだって、
あらためて、びっくりします。
都会の大学に通う僕には、別世界です。
ところが、兄夫婦の家に近づくにつれて、
さらに、山の奥へと入って、
道を間違えているんじゃないか?
ってくらいになります。
電話してみると、
もっと先の、兄夫婦の家の、裏の、
林の中に、いると言うので、
行ってみます。
兄夫婦は、林の中で、
椎茸の収穫をしているところでした。
「これから、雨になるっていうんで、
急いで採っているんだ」
僕も、手伝います。
兄嫁(ねえ)さんが、笑います。
「来て、いきなり、
椎茸を採るとは、思わなかったでしょ?」
林の中に、原木が500本くらいあって、
椎茸が生えています。
採り終えるころには、
汗びっしょりになります。
家で、
仔猫を見せてもらったんですけど、
手のひらに乗る小ささでした。
純白で、薄く銀色の模様があります。
かわいい顔のメス猫です。
美人です。
僕は、一目惚れしてしまいます。
本当に、
恋してしまうことになるんです。
ー つづく ー
美人としか言いようがない猫って
いますよね