知らない人が、僕を手招きしています。

 

 

辺りには、誰もいません。

 

 

大きなバスの傍(かたわ)らに立って、

早く来い!って

手招きしているんです。

 

 

僕は、ただ、散歩しているだけです。

 

 

呼ばれる覚えはありません。

 

 

無視して、行ってもよかったんですけど、

どうせ散歩しているだけだから、

行ってみました。

 

 

手招きしていた人は、

開いたバスのドアの前に立って、

このバスは、あなたで、最後だ

って言っています。

 

 

僕、乗りませんよ

 

 

え? 乗らない?

 

 

手招きしていた人は、

大袈裟(おおげさ)に驚いています。

 

 

僕は、かえって笑いました。

 

 

乗りませんよ。

 

なんで乗らなきゃいけないんですか?

 

 

これに、乗らないと、

ずっと、ふらふら、

歩き回ることになるよ?

 

 

もう少し歩いたら、

家に戻りますよ

 

 

だったら、乗りなさいよ。

 

本当の家に届けてあげるから

 

 

本当の家?

 

 

また、その人は、大袈裟に驚いています。

目まで剥いています。

 

 

あなた、今までの家を、

本当の家だと思ってたの?

 

 

・・・・本当の家ですよ

 

 

ヘンだって、思ったことはなかった?

 

 

・・・・・ないです

 

 

それは、ダメだよ。

 

だったら、乗りなさい。

 

乗れば、わかるから

 

 

バスを見上げると、

もう、みんな、乗っていて、

僕が乗るのを、待っています。

 

 

これ以上、待たせたら、

申し訳ないって気持ちになります。

 

 

それで、つい、

バスに乗ってしまいました。

 

 

淡い青色のニット帽を被った

女の子が、通路に立ちあがってくれました。

 

 

僕の座席を指してくれます。

 

 

僕は、窓際の席に座らせてもらいました。

 

 

そのとたんに、

バスは出発したんです。

 

 

 

ー つづく ー