彼女は本気
彼女が、僕の股間を指さして、
バナナを隠しているって、言います。
もちろん、僕は、とまどいます。
自分でも、股間を指さします。
「バナナって、これですか?」
「そうよ」
「出すんですか?」
「出してちょうだい」
「ここで?」
「ここでよ」
彼女が本気なので、
余計に、とまどいます。
だって、彼女とは会ったばかりです。
名前も知りません。
スーパーマーケットで買い物していたら、
彼女に追いかけられたんです。
でも、とてもキレイな女(ひと)です。
「出してもいいですけど、
本当に出してもいいんでしょうか?」
「さっさと出してちょうだい」
逆に、勇気が要(い)ります。
明るい事務所の中です。
ジーンズのチャックに、
手を掛けました。
そのとき、
目の前に置かれた一房のバナナが、
目に入ります。
何のためのバナナか?って
思います。
「このバナナは、どうするんですか?」
彼女が、テーブルに手をついて、
身を乗り出して来ます。
「覚えがあるでしょ?」
「どんな?」
「ビニールの袋が破られて、
一本、盗(と)られている」
よく見ると、確かに、
ビニールの袋が破られて、
一本、ちぎられています。
「盗ったでしょ?」
「誰が?」
「あなたが盗って、
股間に隠すのを見たのよ」
そんなことする奴は、
いないだろ?って思うんですけど、
彼女は本気なんです。
ー つづく ー
ヘンに本気な人っていますよね![]()
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