小説:最終話 現実を、乗り越えたい
たぶん、僕が、彼女を置いて来たのは、
下半身不随の彼女の面倒をみていくのが、
嫌だったからです。
それに、僕が将来の結婚相手だなんて、
未来が視えたのではなくて、
単なる彼女の妄想でした。
たまたま僕がポニーテールで、
バイクに乗っていたってだけです。
そんなことに期待した自分にも、
腹が立ちます。
ところが、彼女から離れれば、
離れるほど、
彼女を置き去りにして来た
罪悪感が重くなっていきます。
ついカッとなって、
置いて来ちゃったんですけど、
障害者の彼女を、
置いて来ていいわけがないです。
田舎の砂利道に、
歩けない女の子を、
置き去りにしたんです。
街灯もないので、
真っ暗になっているはずです。
ちょっと冷静になってみると、
なんてヒドいことをしたのかって、
冷や汗が出ます。
それで、猛スピードで、引き返します。
通りがかったクルマに
救出されたらいいとか、
逆に、気づかれないで、
轢(ひ)かれちゃったらどうしよ?とか、
怖れます。
確か、この辺りだと思うのに、
見つかりません。
実際は、真っ暗になっているので、
どの辺りかさえ、わかりません。
よく、こんな真っ暗い中に置いて来たと、
自分の人間性の方が怖いです。
やっと、ヘッドライトに、
道の端で、うずくまっている彼女の姿が
照らされます。
僕は、バイクを止めて、
飛び降ります。
駆け寄って、謝ります。
「ごめんなさい。
ついカッとなっちゃって・・・」
ところが、彼女が笑うんです。
「私ね、このまま死んじゃいたいって
思ったの。
そしたら、あの世で、あなたのことを
思い出そうって。
だって、初めて、
なかよくなった男の子だもん。
そしたら、この現実って、
やっぱり思考だって気づいたの。
だって、あの世があったら、
もう現実とは呼べないでしょ?
現実って、これ以外にないから、
現実なんだもの。
死んで、思い出せるなら、
夢みたいなものでしょ?」
僕は、もう、戻って来たことを、
後悔しています。
「でも、あの世なんて、なかったら?」
「だったら、もし、あったら、
あの世では、
一緒に暮らしてくれる?」
結局、彼女を家まで送っても、
ひとりで置き去りにすることになります。
「この世でなら、
一緒に暮らしてもいいけど・・・」
もう2度と、
こんな思いを、彼女に、
させたくなかったからです。
僕も、したくなかったからです。
彼女が、
バイクのヘッドライトに照らされて、
天使みたいに輝きます。
「現実を、思考だと思えたら、
こんな素敵なことがあるのね。
だって、現実を、現実だと思っていたら、
私には、諦(あきら)めしかなかったもの」
砂利道に
転がしておくわけにもいかないので、
彼女をバイクに乗せようとしたら、
抱きついてきました。
僕にしがみついて、激しく泣き出します。
怖かったに違いないです。
不安だったんです。
どんなに現実は思考だと思って、
乗り越えようとしても、
その不安は、とてつもなかったはずです。
きっと、彼女は、
これまで、ずっと、ひとりで、
乗り越えようとして、
闘ってきたんです。
正直、
これからのことを思うと、僕も不安です。
それで僕も、
現実を、思考だと思うことにしたんです。
この現実を、乗り越えたいからです。
これからは、
彼女と一緒に乗り越えていこうと
思うんです。
the end
最後まで読んでくださって、
ありがとうございます![]()
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作品は、
いつも上の方から降りて来るんですけど、
この作品は、ちょっと難しくて、
放って置きました。
去年の8月です。
(スゴく暑かったですね
)
その頃は、フォローしてね!
のアイコンがあったので、
この作品には、ついています。
上の方にいる存在たちからしたら、
僕らの現実が、
夢のように見えるんでしょうね。
僕らは、その夢を、
現実だと思って、魘(うな)されている。
この作品は、
その現実を、夢に戻す仕方を
描いているんだと思います![]()
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