すごくいいもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すごくいいものって?

 

 

  僕らは、海の底に、沈んでいます。

 

  

  頭上には、波が光って、揺らいでいます。

 

 

  「おまえだよ

 

 

  「じゃ、もう見つけたでしょ?

 

 

  「もし、死んで、無くなるなら、

 

もう、おまえは、いなかったよ

 

 

  「死なないで、よかったよね? 

 

まだ、スイカたべてないしね

 

 

  「死んだら、無くなるって、

 

変な思い込みをしてたんだ

 

 

  「なんの話をしてるの?

 

 

  「おまえの話だよ

 

 

  「ぼくが話しているのは、スイカだよ?

 

 

  「死が無いなら、

 

無くなることも、ないんじゃないか?

 

 

  「死ぬでしょ?

 

 

  「死なないから、

 

ずっと溺れていたんだよ。

 

 

   無くなることがないから、

 

溺れ続けていたんだ。

 

 

   もし、無くなるものなら、

 

いつまでも、溺れていないだろ?

 

 

  「もう、ぼく、おぼれてないよ?

 

 兄ちゃんが、来てくれたからね

 

 

  「上を、見てごらん?

 

 

   弟が、顔を上に向けています。

 

 

 

 

  「・・・・・海の中みたい

 

 

  「海の中だよ、もう溺れていないだけで

 

 

  「じゃ、もう、おぼれないの?

 

 

  「溺れないよ。

 

 無くなることもないよ。 

 

無くなるものなら、

 

とっくに無くなっていたからね

 

 

  「ぼく、ずっと、くるしかった。

 

   でも、もう、くるしくないや。

 

   兄ちゃん、来てくれて、ありがとう

 

 

  「こっちこそ、ありがとう

 

 

  「どうして?

 

 

  「怖かったんだ。

 

   心が、ずっと、溺れてた。

 

   海で、無くなりそうになって、

 

ずっと怖くてしかたなかった

 

 

   弟が、無邪気に聞きます。

 

 

  「そんなこと、あったの?

 

 

   僕は、笑います。

 

 

  「そんなことは、なかったよ

 

 

   あの夏、あの海で、

無くなる怖れに、僕は、溺れました。

 

 

   僕を救いに来てくれたのは、

弟の方だったんです。

 

 

 

    おわり

 

 

 

フォローしてね!

 

 

    

            

                   

無は、どこにもありません。

          

それで、存在は、存在します。

          

そこに、存在の平安がありますウインクラブラブ