あの海で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眠れない夜を過ごしました。

 

 

  時間が重くて、流れません。

 

 

  底へ、底へと、たまっていくだけです。

 

 

弟が発見されたのは、翌朝でした。

 

 

 弟の葬儀を済ませても、

もう以前のようには、時間は流れません。

 

 

  とくに、ママは、泣いてばかりです。

 

 

  僕は、責められているように感じます。

 

 

  あのとき、海で、助けに来たパパも、

僕に、

テルはどうした!」と、

恐い顔で、怒鳴りました。

 

 

  実際、波に流されたとき、

弟のことは、忘れていました。

 

 

  自分さえ助かればいいと、

思っていたわけではありません。

 

 

  何が、何だか、

わからないでいたんです。

 

 

 

 

だって、ビニールのサーフボードに

乗ろうとしていたのは、僕だけです。

 

 

  弟は、そばで見ていただけなんです。

 

 

  まさか、一緒に、流されたとは、

思いませんでした。

 

 

  僕も、あの海で、

存在が壊れてしまったかのようです。

 

 

  割れてしまったグラスのようで、僕を、

注ぐことができません。

 

 

  自分で、自分が、支えられないんです。

 

 

  あんなサーフボードなんか

買わなきゃよかったとか・・・・

 

 

すぐ後ろに、

弟がいたかもしれないとか・・・・・

 

 

  時間が流れないって、

同じことばかり考えてるってことです。

 

 

  底へ、底へと、たまっていくばかりで、

どうやったら、流してしまえるのか、

わかりません。

 

 

  でも、本当にたまっているのは、

存在の不安です。

 

 

 無くなってしまうことへの怖れなんです。

 

 

  だって、あの海で、僕も、

存在を失おうとしていたからです。

 

 

 

 

ー つづく ー

 

 

 

フォローしてね!

 

 

 

 

  

無くなってしまうことへの怖れを、

無くすための物語ですウインクラブラブ