巻物を開かないで、読む方法 ６話 １０年が経ちました

１０年が経ちました

梅林で、彼女から巻物を受け取ってから、

１０年が経ちました。

僕らは、山奥で、２人だけで、暮らしています。

　不思議なのは、１０年も一緒に、ひとつ屋根の下に暮らしているのに、未だに、僕は、彼女を、抱けていないんです。

　そのことを、彼女に問いただすと、「ひとつになろうとしないのは、あなたの方よ」って、答えるんです。

　こっちなんか、ひとつになりたくて仕方ないのにです。

「だったら、どうやったら、ひとつになれるんだ？」

「あなたは、あなたを、自分だと思っているでしょ？

　でも、本当のあなたとは、あらゆるものから、同じ所にあるものなの」

　この１０年、こんな禅問答みたいなやり取りを繰り返して来ました。

　本当の僕は、あらゆるものから、同じ所にあるなんて、わかりますか？

　それがわからないと、彼女を抱けないっていうのも、わかりません。

　ただ、彼女は、人間として、素晴らしいんです。

　変な言い方ですけど、全然、人間らしくないんです。

　エゴが無いっていうか、存在感が清らかっていうか、姿貌（すがたかたち）以上に、内面が美しいです。

　１０年も一緒にいると、心の底から、彼女のような人間になりたいって、思えるんです。

　ー　つづく　ー

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