ありのまま

 

 

 

 

 

 

 

 一番上まで昇った観覧車の中から、彼女は、飛び下りてしまいました。

 

 

 ところが、僕の胸に、ぽっかり、穴が開いたんです。

 

 

 だって、一緒にいて、あんなに楽しい女(ひと)って、今まで、いませんでした。

 

 

 あんなに笑ったことも、ありません。

 

 

 巨大な自転車を、右、左に、分かれて乗ったんですけど、あんな芸当ができたのも、彼女とだからです。

 

 

 僕らは、世界で一番幸せなカップルでした。

 

 

 それなのに、彼女を死なせてしまったんです。

 

 

 僕は、観覧車が、下まで降りるまで、頭を抱えて泣きました。

 

 

 あんなに素晴らしい女(ひと)だったのに、なんで死なせてしまったのか?

 

 

 美しいとか、醜いとか、そんな基準が、どこにあるのか?

 

 

 僕さえ、しっかり、彼女を愛せていたら、彼女を死なせずに済んだんです。

 

 

 僕は、観覧車が下まで降りると、転げ落ちるようにして、飛び出しました。

 

 

 彼女の落ちた所まで、駆けると、彼女は、元の落書きに戻っていました。

 

 

 殺害現場の、チョークの人形(ひとがた)のようです。

 

 

 僕は、四つん這いになると、大泣きで、彼女に、口づけしたんです。

 

 

 すると、また、僕の首に、彼女の腕が巻かれました。

 

 

 僕が抱き起こすと、彼女は、自分の姿を見ようとしています。

 

 

 でも、鏡が無いので、見えません。

 

 

 「もう、カワイク、描き直してくれたの?

 

 

 「描き直すのは、やめたんだよ

 

 

 「どうして?

 

 

 「そのままで、最高だって、気づいたからだよ

 

 

 「じゃ、カワイクないままなの?

 

 

 「僕も、絵が下手のままなんだけど、絵が下手な僕は、嫌いか?

 

 

 彼女が首を振ります。

 

 

 「私の望みは、あなたと一緒にいたいだけよ

 

 

 「だったら、僕らの望みは一緒だよ

 

 

 僕らは、赤やオレンジに光る観覧車を背景にして、抱き合って、キスしたんです。

 

 

  

 

 

 実は、ありのままの僕を、受け入れられないでいたのは、僕だったんです。

 

 

 

 おわり

 

 

最後まで読んでくださって、ありがとうございましたウインクお願い

 

 

 

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