6話 いること自体が、思われている
ここまでのあらすじ
妙(たえ)は、毎晩のように、同じ夢を見る。
埼玉県秩父市の三峯神社に参拝をして、帰りのバスに乗ろうとすると、お金がない夢だった・・・・・・
三峯神社で、帰りのバスに乗ろうとして、彼との約束を、思い出しました。
お金があるって、思って、財布を開ける約束です。
「・・・・・・ああ、思い出せて、よかった」
もし財布が空(から)だったら、彼は、もう来てくれないって、言っていたんです。
そんなの、嫌(いや)です。
私は、バスの停留所で、両手で、財布を握りしめて、「お金がある・・・・お金がある・・・・・」って、念(ねん)じ始めました。
バスが到着して、ほかの参拝客たちが、ぶつぶつ言っている私を、気味悪そうに、横目で見ながら、乗り込んでも、運転手さんが、「乗らないんですか?」って、聞いてくれても、私は、財布が開けられません。
結局、最終のバスが行ってしまっても、私は、財布が開けられませんでした。
だって、お金があるって、思ったからって、お金があるもんでしょうか?
開けられないのは、財布じゃなくて、私の人生のようでした。
すると、そこへ、彼が、バイクで、来てくれたんです。
私は、彼の胸に、顔を押し当てて、大泣きです。
来てくれて、うれしかったんです。
彼が、そんな私の、頭を撫(な)ぜて、なぐさめてくれました。
「妙(たえ)さんは、自分が、愛されていないって、思っているんですよ。
愛されていないって、思っているんで、お父さんと、お母さんも、喧嘩ばかりするんです。
この世界は、思いだって、言ったでしょ?
でも、この世界に、妙(たえ)さんがいること自体が、思われているって、ことなんです。
思われている、つまり、愛されているって、ことなんですよ」
私は、泣きながら、そんな話よりも、「僕に、愛されているんですよ」って、言ってほしかったです。
ー つづく ー

