38話 私も、同じ石

 

 

 

    焚き火が消えて、日が暮れると、石の私は、冷えてきて、痛いらしいのです。

 

    竹四郎が、呻(うめ)きながらも、私から離れようとします。

 

    「どこへ行くのですか?

 

    「やわらかい草の上で寝るよ。 あんたの上だと、石の上で寝ているようだよ

 

    実際、私は、石なのです。 肋骨が折れているので、石の上では、つらいのでしょう。

 

    私が、竹四郎のあとを、ついて行こうとすると、暗闇の中で、睨みました。 顔そのものが暗闇に沈んでいるので、暗闇が睨んでいるかのようです。 睨んでいることだけが、わかるのです。

 

    「ついて来るなよ! あんたは、そこにいろ!

 

    「・・・私を抱いてくれるのではなかったのですか?

 

    竹四郎は、私が赤子がほしいなら、抱いてくれると言ったのです。 抱かれると、赤子が授かれるらしいのです。

 

    竹四郎は、闇の中で、影にでもなってしまったようです。 気持ちが暗く沈んでいるのかもしれません。

 

    「あばら骨が折れているのに、抱けるわけがないだろ?

 

    「痛くないように、抱いてくださるわけにはいかないのですか?

 

    「・・・動けないんだよ

 

    動いているのに、動けないと言ったのです。

 

    「動けないなら、ここに、いたらどうですか?

 

    「ここに、いて、どうするんだよ?

 

    「抱いてください

 

    「だから、動けないって言っているだろ?

 

    「でしたら、ここに・・・・

 

    竹四郎が、真っ黒に苛立(いらだ)っています。

 

    「それに、こんな石ばっかりの所で寝れるわけがないだろ!

 

    でも、草の上で寝るには、草が生えている所まで動かなくてはいけません。

 

    「草の上までは、動けるのですか?」 

 

    「・・・動けるよ

 

    「でしたら、そこで、抱いてください

 

    私は、赤子がほしいのです。 母のようになりたいのです。

 

    ・・・だったら、治ったら、抱いてやるよ。 それまで、ここにいろよ! もし一歩でも動いたら、抱いてやらないからな!

 

    「私も、動けないのですか?

 

    「もともと石なんだから、動かなくても平気だろ?

 

    「はい。 何万年でも平気です

 

    「そのころは・・・俺だって動いていないよ

 

    竹四郎は、弱々しい足音で、闇に溶けていきました。 

 

    同じ暗くても、流れの音は、鮮やかで、明るいくらい、響いています。

 

    私は、竹四郎を呼びました。 星空を指さしました。

 

    「竹四郎? 宇宙ですよ? 

 

    この世界は、丸い石で、この中に浮かんでいるのです。

    

     

    

     私が、母に抱いていただいたように、人間に抱いてもらいたいのです。

 

    私も、同じ石なので、わかるのですよ

 

    ですが、竹四郎からの返事は、ありませんでした。

 

    それから、しばらく経って、深夜、遠く、夜の山で、山犬たちが騒いでいました。

 

    ですが私は、竹四郎が、近くにいると思っていたのです。 

 

    それに、動いたら、抱いてもらえなくなるです。

 

    翌朝、私は、竹四郎を呼びましたが、返事はありませんでした。

 

    探しに行こうかと思いましたが、一歩でも動いて、抱いてもらえなくなると困るので、そのまま、私は、じっとしていたのです。