36話 受け入れたらいいだけ

 

 

  「・・・俺は、この世界に動かされているってことなのか?

 

  竹四郎の声が、肋骨が折れているせいか、風の音のようです。

 

  「でも、竹四郎の心が、世界の心なら、この世界を動かしているのは、竹四郎とも言えるでしょ?

 

  「言えるか! うっ・・・うっ・・・」 強く否定したせいで、呻(うめ)いています。

 

  鳥が、水際を、低く、飛んで、翻(ひるがえ)り、羽ばたき、揺れて、緑に隠れました。

 

    「ほら、鳥を飛ばしたでしょ?

 

  「・・勝手に・・飛んだんだよ。 俺が飛ばしたわけじゃない

 

  竹四郎は、強く言わないように、弱々しく言っています。

 

  「でしたら、竹四郎も、勝手に、そう思っているだけですよ。 鳥が飛ぶのも、水が流れるのも、竹四郎が考えるのも、この世界が動いているのです

 

  「俺が、勝手に、思ってもか?

 

  「もし、鳥が、勝手に、飛んでいるとしたら、ですよ?

 

  竹四郎は、鳥は、勝手に、飛んでいると思っているのです。

 

  「・・・鳥は、勝手に、飛んでいないのか?」 

 

  今、喋っている竹四郎の口は、勝手に、喋っているのですか?

 

  「勝手に、喋るわけないだろ?

 

  「でしたら、鳥も、勝手に、飛ぶわけないですよ

 

  竹四郎が、片方だけ眉毛を顰(しか)めます。

 

  「・・・だったら、誰が、飛ばしているんだよ?

 

  「ですから、この世界の心ですよ。 心が、姿を創るのですから

 

  「だったら、やっぱり、俺も、世界に動かされているんじゃないのか?

 

  「世界を動かしているのです

 

  「俺が?

 

  「心ですよ。 この世界を、心とするのです

 

  竹四郎が、痛々しく、腕をあげて、山を指さしました。

 

  だったら、俺が、・・あの山に向かって、動けと言ったら、・・山は動くのか?

 

    

  

  「きっと、山は、おまえの方が動けって、言うと思いますけど

 

  「・・・そんなこと、山が言うか?

 

  「結局は、自分が、自分に、言うのですから

 

   竹四郎が、呻いています。 そんなことは、どうだっていいっと、文句を言いたいのです。

 

  「・・・俺が知りたいのは、どうやったら強くなれるのか?ってことだよ

 

  「石は、この世界を、受け入れているだけです。 自分が、世界だと、受け入れているのです。  それが、石を強くしているのです。 強くなりたければ、自分が世界だと、受け入れたらいいのですよ

 

  竹四郎の顔には、失望の色が浮かびました。 絶望の色かもしれません。

 

  「・・・俺が、世界だって言ったら、絶対に、みんなが、腹を抱えて笑うよ。 馬鹿にされるだけだよ

 

  「笑われることも、受け入れるのです。 それが、強さってことですよ