25話 だから、人間は面白い

 

 

 

 

   炎が上がると、竹四郎は、細長い枝で、兎(うさぎ)を串刺しにしました。

 

   私は、兎を抱くつもりでいたので、なぜ串刺しにするのか、わかりません。 串なんか刺さっていると、抱きづらいのです。

 

   「竹四郎? 何をするのですか?

 

   「焼くんだよ。 うまいぞ

 

 

   枝に刺した兎を、炎で焼いています。

 

   「月の印(しるし)を、焼いてしまってもいいのですか?

 

   赤子を授かるには、女子(おなご)に、月の印が要(い)るらしいのです。

 

   「食べたら、どっかに、印が出るんじゃないか? 俺は、女子(おなご)の裸なんか見たことがないから、わからないけど・・・

 

   「石は、何も食べれませんよ

 

   竹四郎は、ひどく驚いています。

 

   「食べれない? 何も?

 

   「竹四郎は、何か食べている石を見たことがあるのですか?

 

   「もしかして俺も、石になったら、何も食べれなくなるのか?

 

   竹四郎が驚いているのは、自分が食べれなくなることらしいのです。

 

   「私が赤子のとき、母は、私のために、貰い乳(もらいちち)をしてくださいました。 でも、私は吐いてしまいました。 石は、食べれないのです

 

   「腹が空かないのか?

 

   「石は、在(あ)るだけです。 在るだけでいると、お腹も空きません

 

   竹四郎は、顔を顰(しか)めています。

 

   「在(あ)るだけなんて、詰まらないけど、食べれないなんて、もっと詰まらないよ

 

   「だから、人間は面白いのです。 色々な面白さを、創ってきたのです。 きっと面白くするために、わざと弱くなったのです。 でも、強くなりたいのなら、詰まらなくなるしかありません。 石は、詰まらないけど、強いのですよ

 

   竹四郎の顔が、炎に照らされて、複雑な光り具合(ぐあい)をしています。 

 

   強さを取るか、食べることを取るか、考えているらしいのです。

 

   その複雑さが、この世界を、きっと、複雑で、面白いものにしているのです。

 

       もし、あなた方、人間がいなくて、私のような石ばかりでしたら、この世界は、面白くも何ともありません。

 

   ただ、石の私に、一言、言わせていただくなら、もともと、この世界は、単純なのです。

 

   それを複雑なものにしているのは、あなた方です。

 

   この世界は、心でできています。

 

   人間の心も、この世界の心です。

 

   あなた方の複雑な心が、この世界を複雑にしています。

 

   でも、石の私は、あなた方、人間が、このような複雑で、面白い世界を創ったことを、心から賞賛(しょうさん)しております。

 

   面白さにかけて、あなた方、人間の右に出る存在はないのです。