23話 似合いの夫婦

 

 

   竹四郎は、私に、毛衣(けごろも)を着せてくれました。 鹿の毛皮とのことです。

 

   私は、父と母に、着物を着せていただいたので、毛衣を着せてもらっているとき、愛情を感じてしまいました。 竹四郎に、愛されていると、感じてしまったのです。

 

  「竹四郎? 私たちも、赤子を授かりましょう?

 

 

   ところが、なぜか、竹四郎は、ぐらぐらと揺れて、また真っ赤な顔になったのです。

 

   もう私は、毛衣を着て、裸ではないので、なぜ竹四郎が赤くなったのか、わかりません。

 

  「竹四郎? また顔が赤いですよ? 心が、赤くなっているのでしょ? なぜ心を赤くしているのですか?

 

  「いきなり赤子を授かろうなんて、言うから・・・

 

  「だって、兎(うさぎ)もあるし、もう授かれるでしょ?

 

  「食べて、元気をつけるってことか?

 

  「食べてしまうのですか? 抱くのではなくて?

 

   私は、兎を抱いて、赤子にすると、思ったのです。 石が赤子になれたのですから、兎だって、なれると思ったのです。 きっと、よく跳ねる元気な子になると思いました。

 

  「食べるよ。 そのあとで・・・・・

 

   ますます竹四郎の顔が赤くなります。

 

  「そのあとで?

 

  「あんたが、どうしても赤子がほしいと言うなら、抱いてやるよ

 

   私は、驚きました。 喜んだのです。 私は、父と母以外の人間に、抱かれたことがないのです。 みんな、私を気味悪がったのです。

 

  「竹四郎は、私が気味悪くないのですか?

 

  「・・・・・確かに、気味が悪いと言えば、気味が悪いんだけど、でも、俺も、石になるなら、気味悪がっている場合じゃないだろ? むしろ似合いの夫婦(めおと)だよ

 

  「似合いの夫婦・・・・・私の父と母のような?

 

  「あんたの父様(ととさま)と母様(かかさま)は、よっぽど、仲が良かったんだな。 俺のおっ父(とう)とおっ母(かあ)は、あんな夫婦になりたいとは思えないよ

 

  「どんな夫婦なのですか?

 

  竹四郎は、なかなか言葉が見つからないようです。

 

  「・・・・・・おっ母は、おっ父に、生け捕りにされたんだよ

 

  「生け捕り?

 

  「でも、俺も、何日も獲物が獲(と)れないとき、おっ父に食われるんじゃないかと思っていたから・・・・おっ母と変わらないかもしれない

 

  「竹四郎のおっ父様って、人間を食べるのですか?

 

   また竹四郎は、なかなか言葉が見つからないようです。

 

  「・・・・・・食べているところは、見たことはないよ。 でも、傍(そば)にいると、食われそうな気がするんだ。 今だって、もし生きていたら、おっ父の傍(そば)へは近寄りたくないよ

 

     「竹四郎を熊に食べさせたくなかったって、自分が食べるつもりだったってことですか?

 

   竹四郎は、思い出しているのか、今度は、白くなって、石のようになっています。 竹四郎には、石になる素質がありそうです。

 

   「たぶん、おっ父は、呪(のろ)われていたんだよ。 俺たちは、生き物を殺しているから、それで、呪われてしまうんだよ

 

   白くなって、石のようになっている竹四郎は、哀れでした。 

 

   本当なら、石のようになれば、哀れさとは無縁のはずです。 哀れとは、無力感の現れだからです。

 

   私は、そんな竹四郎が哀れで、絶対に、立派な石にしてあげたいと思ったのです。

 

 

 

 

 

 

 

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