21話 石でさえ、動かすことができる
なぜか竹四郎は、怯(おび)えています。
「でも、石になったら、固まるだろ? 動けなくなるだろ?」
固まることに、怯えているらしいのです。
「石は、動けないのではないのです。 動かないのです」
「同じだろ?」
「石の心が、動かないのです。 いつだって、あるがままでいるのです」
竹四郎が、じっと私を見ています。
「あんた、石だろ?」
「石です」
「どうして動けるんだよ?」
「父と母に愛されて、心が動いたからです」
竹四郎は、拳(こぶし)を怪我しているからか、もう私を殴りたくないのか、手のひらで、私の肩を、ペン、ペンっと、叩きました。
「・・・・硬いよ。 石だよ。 腕をあげてみろよ?」
それで、私は、腕をあげてみせました。
「なんで、硬いのに、腕があがるんだよ?」
「心ですよ」
「肩が硬かったら、動かないだろ?」
「心は、物を創るのです。 私たちは、心に創られているのです」
竹四郎は、肩ばかり、触っています。 不思議で仕方ないのです。
「心が変化すれば、物も変化します。 私が動けるのは、父と母に育てていただいた心のお陰です」
「心で、こんな硬いものが、動くのか?」
「どんな物でも、動きますよ」
「樹も、歩いたりするのか?」
「歩きたければ」
「樹が、歩きたいとは思わないだろ?」
「でも、人間たちは、歩きたいと思ったのですよ。 喋りたいと思ったのです。 それで、人間たちは、歩いたり、喋ったりするのです。 笑ったり、怒ったりするのです。 愛したいと思ったから、愛するのです。 でも、それは、この世界だって、同じです。 この世界にも、世界の心があるのです。 どんな物だって、心で創られているのです」
私は、石として、何万年も、じっとしていたので、変化の豊かな、この世界の心が、よくわかります。
ところが、あなた方、人間は、もっと豊かな心を持っているのです。
私は、父と母に愛されて、人間の心の豊かさを知ったのです。
まさか、これほど深く、豊かなものがあるとは、知りませんでした。 私は、愛していただいて、人間の心の豊かさに驚いたのです。
何万年も、じっとしていたからこそ、人間の心が、最も豊かだと、わかるのです。
あなた方は、この世界で、最も豊かな心を、持っています。
この世界を変えられるほどの、豊かな心を持っているのです。
それは、石でさえ、動かすことができるのです。
石の私が、言っているのですから、嘘ではありません。
石は、嘘をつきません。
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てら子屋のある街
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