17話 もっと貴いもの

 

 

 

      思いっきり、石を殴ると、そんなに痛いものなのか、竹四郎の痛がり方が、尋常(じんじょう)ではありませんでした。

 

 

   見ているだけでも、哀れになるほどの痛がりようなのです。

 

   まるで生命の儚(はかな)さに、燃えているかのようです。

 

   あなた方は、こんな痛みを、抱えて生きているのですね?

 

   私は石ですから、痛みはありません。 正直、それが、どんなものか、想像もつきません。

 

   そんな痛みを知らない私を、あなた方は、羨ましがったりするのでしょうか?

 

   ところが、石の私からしますと、痛みを知っているあなた方が、羨ましいのです。

 

   きっと、あなた方は、痛みのお陰で、生きていることを、感じられるのです。

 

   痛みのお陰で、生命の尊さを、知っているのです。

 

   私などは、痛みを知らないので、生きているのか、どうかも、感じられないのです。

 

   じっとしていると、いつまでも、じっとしているのです。

 

   石は、存在することに関しては、あなた方より、優れております。 

 

   石の心とは、存在そのものです。

 

   もちろん、石も生きています。

 

   それでも、石の生き方と、あなた方の生き方とは、違うのです。

 

   あなた方の方(ほう)が、より活き活きと生命を感じられるのです。

 

   それは、あなた方が、痛みというものを、知っているからです。

 

   痛いのは嫌(いや)だと思っていらっしゃるかもしれませんが、石の私から見ますと、あなた方は、特別に愛されている存在に見えるのです。

 

   ですから、私は、あなた方に憧れているのです。

 

   人間のようになりたいと願っているのです。

 

   あなた方のように、この世界を感じてみたいのです。

 

   私なんかより、あなた方の中には、もっと貴いものがあるのです。

 

       それを、お伝えしたくて、私は、あなた方の元へと戻って来たのです。