99話 雲の上のデート

 

 

 

 

 

 

 婦人警察官は、ほのかに顔を赧(あか)らめている。

 
私が、愛されていると信じたら、あなたは現れてくれるの?
 
「現れているものは、すべて、あなたが信じたものですよ」
 
 婦人警察官は、信じられないくらい美しい純白の雲の世界を見回している。
 
私は、まさか、こんな雲の上へ来るって、思わなかったけど?
 
 婦人警察官は、目を細めて、僕を見つめた。 
 
 明らかに、信じていない。
 
「あなたは、魂(たましい)なんです。 
 魂って、意識ですよ。
 意識が、意識するって、自分で、自分を思い出すってことなんです」
 
私が、私を、思い出しているの?
 
 婦人警察官は、もっと目を細めて、首まで傾(かし)げている。
 
私が知りたいのは、今度、生まれ変わったら、あなたが、ちゃんと現れてくれるかってことなのよ
 
「思い出してくれたら、現れますよ」
 
忘れちゃったら?
 
「大丈夫ですよ。
 思い出すまで、何度だって、生まれ変わるんです」
 
あなたを思い出すまで、私は、ひとりで、何度も、淋しく生きなきゃいけないってことなの?
 
「思い出すのは、あなたが意識だってことです。 
 すべてが、意識だってことです」
 
 婦人警察官は、目を細めたまま、泣きそうになっている。 
 
 壊れそうな表情が、儚(はかな)げだ。
 
・・・・・・そんなこと、思い出さないと、あなたは、現れてくれないの?
 
「大丈夫ですってば。 
 今回だって、現れたじゃないですか」
 
え? 
 じゃ、私たち、以前にも、会うって約束していたの?
 
「誰もが、自分を、思い出そうとしているんです。 
 出会うのは、すべて、自分なんです」
 
 婦人警察官は、唇を尖(とが)らせている。
 
もっと夢のある言い方で言ってよ
 
「夢なんですよ」
 
そのまんまじゃないの
 
「そのまんまですよ。 
 だから、愛されていると信じれば、愛されるんです」
 
私が、愛されないのは、愛されているって信じていないからなの?
 
「もし、信じていたら、私、そのものが、いらないんです。 
 
 愛されていないと、信じているから、私が、必要なんです。
 
 なんとか生き残ろうと、意識しているのが、私、なんです」
 
 婦人警察官は、唇を尖らせたままだ。
 
私が無くて、どうやって愛されるのよ?
 
「愛されているんですよ。 
 それに気づくことが、自分を思い出すってことなんです」
 
私が、したいのは、恋なのよ。 
 デートがしたいの。 
 自分なんか、思い出したって、面白くも何ともないわ
 
 僕は、婦人警察官の、尖らせた唇に、キスした。
 
 
 婦人警察官は、驚いている。
 
・・・・なんで、いきなり、キスしたの?
 
「雲の上のデートですよ」
 
死んじゃっても、デートって、できるの?
 
「意識に、できないことは、無いですから」
 
・・・・・できないことが、無いなんて、まるで神様みたいね
 
「あなたが、思い出そうとしているのは、まさしく、それなんですよ」