98話 花の溜め息
婦人警察官は、溜め息ばかりついている。
でも、溜め息をつく女性には、不思議なカワイさがある。
まるで、花が、溜め息をついているみたいだ。
「僕らは、今、白い雲の上に座っているんですよ?」
「死んだからでしょ?」 返事が、素っ気(そっけ)ない。 まだ、死んだことを後悔している。
「そうなんですけど、僕らは、死んだら、おしまいだと思っていませんでしたか?」
「だったら、病院のベッドで、昏睡(こんすい)状態なのかも・・・・・」
「確率的には、あり得(え)ますね」
「意識が戻っても、大怪我(おおけが)だろうし、かと言って、死ぬのも嫌だし・・・・・・憂鬱(ゆううつ)だわ」
「それで、溜め息ばっかりついているんですか?」
「他にすることないもの」
婦人警察官は、一際(ひときわ)、大きな溜め息をついた。
「僕らは、今、白い雲の上に座っているんですよ?」
「それ、さっき、聞いたわよ」 さらに素っ気ない。
「凄(すご)くないですか?」
「どこが?」
「地上にいたとき、真っ白い雲を見上げて、あの雲の上に座ってみたいって、思いませんでした?」
婦人警察官は、不機嫌だ。
キッパリと、わざと丁寧(ていねい)に、否定した。
「思いませんでした」
「こんなに美しくて、素晴らしいのに?」
「白い雲の上じゃなくて、白い病院のベッドの上かもしれないのよ」
溜め息が止まらない婦人警察官の隣(となり)で、僕は、笑いが止まらない。
「僕は、幸せです。
白い雲の上に座れて、隣には、こんなカワイイ女性がいるんです」
「あなただって、病院のベッドの上かもしれないわ」
「どうして、そんなに、現実にこだわろうとするんですか?」
「私が生きていられるのは、身体があるからだもの」
「意識が無かったら、身体があることもわからないじゃないですか。
身体も、意識の中にあるってことなんですよ」
「逆でしょ?
意識が、身体の中にあるんでしょ?」
「それ、誤解(ごかい)ですよ。
意識が、身体の中にあると思うから、僕らは、ばらばらなんです」
「だって、ばらばらだもの」
「ばらばらだと、思っているだけなんですよ」
「どう思ったって、ばらばらなものは、ばらばらよ」
「あなたは、あなたが、どう思うか、の中にしか生きられないんです」
「じゃ、私が、どう思うかで、世界は変わるって言うの?」
「変わりますよ」
「ほんと?」
「本当ですよ。
愛されていると思えば、愛されるんです」
「それで、誰からも、愛されなかったら?
私は、モテたことがないのよ」
不満そうに、唇を尖(とが)らせている。
それだって、花の蕾(つぼみ)のようだ。
「あなたが、愛されないなんて、最も酷(ひど)い誤解ですよ。
あなたが、そんなふうに思っていると、僕は、生まれ変わっても、あなたの前に現れることができません。
どうか、愛されているって、信じてください。
あなたは、愛されているんですから」
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