98話 花の溜め息

 

 

 

 

 

 婦人警察官は、溜め息ばかりついている。

 

 でも、溜め息をつく女性には、不思議なカワイさがある。 

 

 まるで、花が、溜め息をついているみたいだ。

 

「僕らは、今、白い雲の上に座っているんですよ?」

 

死んだからでしょ?」 返事が、素っ気(そっけ)ない。 まだ、死んだことを後悔している。

 

「そうなんですけど、僕らは、死んだら、おしまいだと思っていませんでしたか?」

 

だったら、病院のベッドで、昏睡(こんすい)状態なのかも・・・・・

 

「確率的には、あり得(え)ますね」 

 

意識が戻っても、大怪我(おおけが)だろうし、かと言って、死ぬのも嫌だし・・・・・・憂鬱(ゆううつ)だわ

 

「それで、溜め息ばっかりついているんですか?」

 

他にすることないもの

 

 婦人警察官は、一際(ひときわ)、大きな溜め息をついた。

 

「僕らは、今、白い雲の上に座っているんですよ?」

 

それ、さっき、聞いたわよ」 さらに素っ気ない。

 

「凄(すご)くないですか?」

 

どこが?

 

「地上にいたとき、真っ白い雲を見上げて、あの雲の上に座ってみたいって、思いませんでした?」

 

 婦人警察官は、不機嫌だ。

 

 キッパリと、わざと丁寧(ていねい)に、否定した。

 

思いませんでした

 

「こんなに美しくて、素晴らしいのに?」

 

白い雲の上じゃなくて、白い病院のベッドの上かもしれないのよ

 

 溜め息が止まらない婦人警察官の隣(となり)で、僕は、笑いが止まらない。

 

「僕は、幸せです。 

 白い雲の上に座れて、隣には、こんなカワイイ女性がいるんです」

 

あなただって、病院のベッドの上かもしれないわ

 

「どうして、そんなに、現実にこだわろうとするんですか?」

 

私が生きていられるのは、身体があるからだもの

 

「意識が無かったら、身体があることもわからないじゃないですか。 

 身体も、意識の中にあるってことなんですよ」

 

逆でしょ?

 意識が、身体の中にあるんでしょ?

 

「それ、誤解(ごかい)ですよ。 

 意識が、身体の中にあると思うから、僕らは、ばらばらなんです」

 

だって、ばらばらだもの

 

「ばらばらだと、思っているだけなんですよ」

 

どう思ったって、ばらばらなものは、ばらばらよ

 

「あなたは、あなたが、どう思うか、の中にしか生きられないんです」

 

じゃ、私が、どう思うかで、世界は変わるって言うの?

 

「変わりますよ」

 

ほんと?

 

「本当ですよ。

 愛されていると思えば、愛されるんです」

 

それで、誰からも、愛されなかったら?

 私は、モテたことがないのよ

 

 不満そうに、唇を尖(とが)らせている。

 

 それだって、花の蕾(つぼみ)のようだ。

 

 

あなたが、愛されないなんて、最も酷(ひど)い誤解ですよ。

 

 あなたが、そんなふうに思っていると、僕は、生まれ変わっても、あなたの前に現れることができません。

 

 どうか、愛されているって、信じてください。

 

 あなたは、愛されているんですから