79話 どこまでも愛されている

 

 

 

そんなに現実も意識だと言うなら、意識で、その手錠をはずしてみせてよ?

 

「この手錠も、意識ですよ。 

 僕らには、金属の手錠に見えますけど、読んでくれている人の意識で、できているんです」

 

だったら、その読んでくれている人に、助けてって頼んだら? 

 手錠をはずしてくださいって、頼みなさいよ。 

 いるんでしょ?

 

「いますよ」

 

どこにいるの?

 

「今、ここに、いますよ。

 この世界そのものが、その人の意識なんです。 

 でも、大事なのは、すべてが意識だということなんです」

 

  婦人警察官は、取り調べ室の中を見回したが、大袈裟(おおげさ)に、溜め息をついた。 

 

 取り調べ室が、意識でできているとは思えなかったらしい。

 

これから、あなたを検察に連れて行くわ。 

 送検されたくなかったら、意識で、この手錠をはずしてみなさいよ

 

「僕らは、僕らを、実在する人間だと思っていますけど、読んでくれている人にとっては、僕らは想像上の人間なんです」

 

 婦人警察官は、可哀想(かわいそう)だと言いたそうに、僕を見つめた。

 

あなた、自分のことを、想像上の人間だと思っているの? 

 架空(かくう)の人物ってこと?

 

「僕らを読んでくれている人は、そう思っていますよ。 

 この世界だって、想像上の世界なんです。

 現実も、想像だと言ったのは、そういうことなんです」

 

あなたは、これから、送検されて、起訴(きそ)されると、裁判にかけられるのよ。 

 裁判でも、そんなことばっかり言っていると、精神病院に入れられてしまうわよ

 

「でも、僕らも、読んでくれる人も、意識なんです。

 同じ意識の中にいるんです。

 読んでくれる人のことを、僕らを、見守ってくれる守護霊がいる、と言うのかもしれません。

 書いてくれる人のことを、僕らの中に、神様はいる、と言うのかもしれないんです」

 

だったら、書いてくれる人に、手錠をはずさせなさいよ。 

 そうしたら、信じてあげるわよ

 

「僕らは、意識の中にいて、僕らの中まで、意識なんです。

 つまり、僕らは、どこまでも意識なんです。

 それは、ひとつだってことなんです」

 

手錠がはずせないなら、もう、これ以上は、聞いてあげないから

 

 婦人警察官は、今度は、両手の人差し指を、自分の両耳に、近寄せている。

 

 

 指で、耳を塞(ふさ)ぐ気だ。

 

「ひとつだってことが、愛なんです。

 意識の中にいて、僕らの中まで意識だってことが、僕らが、どこまでも愛されているってことなんですよ」

 

 婦人警察官は、両方の指で、両耳を塞いでしまった。

 

 首を、横に振ってみせる。

 

「愛が、僕らの帰るところなんですよ。

 どこまでも愛されていると、信じられたら、愛に帰れたってことなんです。

 愛に戻れたってことなんですよ」

 

 話し終えて、僕が口を噤(つぐ)むと、婦人警察官は、耳から、指を抜いた。

 

終わったかしら?

 

「僕の話は、読んでくれている人が、ちゃんと聞いてくれましたよ」

 

口では、何だって言えるわよ。 

 私は、証拠が見たかったの。 

 私は、警察官なのよ。 

 証拠も無く、信じてあげることはできないわ

 

「僕らが、意識だって証拠ですか?」

 

意識で、手錠をはずすことよ

 

「手錠にこだわれば、また迷うことになるんですよ。 

 夢の中を、迷うんです。 

 それが悪夢にするんです」

 

あなたの悪夢は、これから始まるのよ

 

「いいえ。 もう終わりました。 

 僕は、愛されているんです」 

 

誰に?

 

「自分に、です。 

 意識は、意識するって、自分は、自分を愛するってことでもあるんです」

 

私は、誰かに愛してほしいわ

 

 僕は、Yukiの言ってきたことが、わかることが嬉しくて、笑った。

 

「自分って、この僕のことではないです。

 すべてのことです」

 

すべてが、自分なの?

 

「すべては、意識なんですよ。

 その証拠に、すべては、エネルギーでできているんです。

 エネルギーは、振動です。

 その振動が、意識なんです」

 

どうして振動が、意識なのよ?

 

「僕らは、脳ができて、意識が生まれたと思っていますけど、脳も、その振動からできているんです。

 脳も、エネルギーでできているってことです。

 それが、意識するんですから、振動が意識しているんですよ。

 つまり意識が、意識しているんです」

 

そんなの、証拠になるかしら?

 

「振動は、波ですよ。 

 波がぶつかり合って、色々なものを描くんです。 

 その描かれたものが、宇宙です。 

 でも、波なんですよ。

 意識なんです」 

 

 

 婦人警察官は、手錠を引っ張って、僕を立ち上がらせた。

 

結局、この手錠は、はずせないんでしょ?

 だったら、あなたの身柄(みがら)を送検するわ

 

「大丈夫ですよ。 僕は、愛されていますから。

 意識が、僕を、どんなふうに愛してくれるのか、楽しみにするだけです」