36話 夢の話
僕は、興奮しているのか、緊張しているのか、生唾(なまつば)を飲み込んだ。
「あのぅ。 そろそろ、突っつかせてもらってもよろしいでしょうか?」
「いいわよ。 どこでも、好きなだけ、突っついて」
とても綺麗な女の人が、どこでも好きなだけ突っついて、なんて言うのは、確かに、この世界が夢だからかもしれない。
こんな夢のような世界なら、わざわざこの世界から、目覚める必要は無いのかもしれない。
ずっとこの世界に居(い)たいくらいだ。
Yukiは、壊れることは、愛だと言った。 つらいことが、僕を目覚めさせてくれるから、らしい。 でも、目覚めたからって、こんな綺麗な女の人を、どこでも、好きなだけ、突っつける以上の、ことがあるのだろうか?
月だと名乗る女の人は、首を傾げた。
「どうしたの? 突っつかないの?」
僕は、あわてて返事をする。
「突っつきますよ。ただ、夢のようで、突っついた途端(とたん)に、この夢が弾(はじ)けて、壊れてしまいそうで、怖いんです」
「月が、弾けて、壊れる? まさか。 そんなに月は柔(やわ)じゃないわよ」
「柔らかくないんですか? 柔らかそうに見えますけど?」
とくに、乳房などは、ふっくらと柔らかそうに膨(ふく)らんでいる。
「しゃぼん玉じゃないんだから。 突っついたからって、弾けて、壊れたりしないわ。 ほら、どうぞ? 突っついてみて?」
「それじゃ、お言葉に甘えて・・・・・・」
僕は、女の人の、胸の膨らみを、そっと、指で、突っつかせてもらった。
僕は、ほっとした。 ちゃんと、柔らかい。 指が、沈んでゆく。
もし、突っついて、石のように固かったら、がっかりしていただろう。
乳房は、弾力のある柔らかさだ。 柔らかくて、温かい。 水分を多く含(ふく)んだような柔らかさだ。 しっとりしている。 服の上からでも、伝わってくる。
女の人が、笑うように囁(ささや)いて聞く。
「どう?」
「柔らかいです」
「そうじゃなくて・・・自分を突っつけた?」
「僕には、こんな良(い)いものは無いですよ」
「突っつき方が足りないのよ。 もっと突っついてみて?」
「だったら、両方の手で、両方の胸を、突っついてもいいですか?」
「いいわよ」
それで、僕は、両方の人さし指で、それぞれの乳房を、突っついた。
「今度は、どう?」
「・・・・・興奮はしますけど」
「興奮? どうして月を突っついて興奮するの?」
「僕には、あなたが、人間の女の人に見えるんですよ」
「あなた、女の人を、突っつくと、興奮するの?」
「しますよ」
「どうして?」
「僕が、男だからですよ」
「男だと、どうして興奮するの?」
「そんなの、神様にでも、聞いてくださいよ」
「だから、あなたに、聞いているのよ」
「僕は、神様じゃないです」
「あら? あなた、本当に、夢を見ているのね?」
「どういう意味ですか? この夢から目覚めると、僕は神様だとでも、言いたいんですか?」
「だって、そうなんだもの」
「それこそ、夢の話ですよ」
「そうよ。 私たちは、夢の話をしているのよ」
僕は、話をしながら、両方の手で、両方の乳房を、突っついている。
「なるほど。 僕は、自分が神様だっていう夢を見ているってことですね?」
「違うでしょ? あなたは、自分が神様じゃないっていう夢を見ているのよ」
「僕が神様のわけないじゃないですか」
「自分と神様を分けて、 月とも、分けて、別々のふりをして、このまま彷徨(さまよ)い続けるの?」
「もともと別々なんですから」
「どうして、もともと別々だとわかるの? そんなことわかるのは、神様だけよ。 もともと、を知っているのは、神様だけなんだから」
「僕は、神様じゃないので、もともとは、知らないですよ」
「だったら、別々じゃないってことでしょ?」
「いえ・・・・別々です」
「それを知っているってことは、あなた、神様ってことよ?」
「それも・・・・・違います」
「だから、どうして違うってわかるのよ?」
「わかりますよ」
両方の手で、女の人の乳房を突っついる男が、神様のわけがないと思うのだ。
「やっぱり、突っつき方が足りないのよ。 どうして指一本なの? 遠慮(えんりょ)しているの?」
「指2本にしても、いいんですか?」
「どうせなら5本にしたら?」
「それだと、掴(つか)んじゃうことになりますけど?」
「掴んじゃった方が、理解しやすいんじゃない?」
「何を理解するんでしょうか?」
「もちろん、あなたが神様だってことよ」
「おっぱいを掴(つか)んだからって、そんな理解が得られるとは思えませんけど?」
「やってもみないで、どうしてわかるの?」
やってみなくても、わかるとは思うけど、ただ、やりたい。
「やっても、いいんでしょうか?」
「自分が神様だって、わかるまでやってよ」
どう考えても、これは夢だと思う。 幸せ過ぎるからだ。



