36話 夢の話

 

 

 

 僕は、興奮しているのか、緊張しているのか、生唾(なまつば)を飲み込んだ。

 

「あのぅ。  そろそろ、突っつかせてもらってもよろしいでしょうか?」

 

いいわよ。 どこでも、好きなだけ、突っついて

 

 とても綺麗な女の人が、どこでも好きなだけ突っついて、なんて言うのは、確かに、この世界が夢だからかもしれない。

 

 こんな夢のような世界なら、わざわざこの世界から、目覚める必要は無いのかもしれない。

 

 ずっとこの世界に居(い)たいくらいだ。

 

 Yukiは、壊れることは、愛だと言った。 つらいことが、僕を目覚めさせてくれるから、らしい。 でも、目覚めたからって、こんな綺麗な女の人を、どこでも、好きなだけ、突っつける以上の、ことがあるのだろうか?

 

 月だと名乗る女の人は、首を傾げた。

 

どうしたの? 突っつかないの?

 

 僕は、あわてて返事をする。

 

「突っつきますよ。ただ、夢のようで、突っついた途端(とたん)に、この夢が弾(はじ)けて、壊れてしまいそうで、怖いんです」

 

月が、弾けて、壊れる? まさか。 そんなに月は柔(やわ)じゃないわよ

 

「柔らかくないんですか? 柔らかそうに見えますけど?」

 

 とくに、乳房などは、ふっくらと柔らかそうに膨(ふく)らんでいる。

 

しゃぼん玉じゃないんだから。 突っついたからって、弾けて、壊れたりしないわ。 ほら、どうぞ? 突っついてみて?

 

 

「それじゃ、お言葉に甘えて・・・・・・」

 僕は、女の人の、胸の膨らみを、そっと、指で、突っつかせてもらった。

 

 僕は、ほっとした。 ちゃんと、柔らかい。 指が、沈んでゆく。

 

 もし、突っついて、石のように固かったら、がっかりしていただろう。

 

 乳房は、弾力のある柔らかさだ。 柔らかくて、温かい。 水分を多く含(ふく)んだような柔らかさだ。 しっとりしている。 服の上からでも、伝わってくる。

 

 女の人が、笑うように囁(ささや)いて聞く。

 

どう?

 

「柔らかいです」

 

そうじゃなくて・・・自分を突っつけた?

 

「僕には、こんな良(い)いものは無いですよ」

 

突っつき方が足りないのよ。 もっと突っついてみて?

 

「だったら、両方の手で、両方の胸を、突っついてもいいですか?」

 

いいわよ

 

 それで、僕は、両方の人さし指で、それぞれの乳房を、突っついた。

 

今度は、どう?

 

「・・・・・興奮はしますけど」

 

興奮? どうして月を突っついて興奮するの?

 

「僕には、あなたが、人間の女の人に見えるんですよ」

 

あなた、女の人を、突っつくと、興奮するの?

 

「しますよ」

 

どうして?

 

「僕が、男だからですよ」

 

男だと、どうして興奮するの?

 

「そんなの、神様にでも、聞いてくださいよ」

 

だから、あなたに、聞いているのよ

 

「僕は、神様じゃないです」

 

あら? あなた、本当に、夢を見ているのね?

 

「どういう意味ですか? この夢から目覚めると、僕は神様だとでも、言いたいんですか?」

 

だって、そうなんだもの

 

「それこそ、夢の話ですよ」

 

そうよ。 私たちは、夢の話をしているのよ

 

 僕は、話をしながら、両方の手で、両方の乳房を、突っついている。

 

「なるほど。 僕は、自分が神様だっていう夢を見ているってことですね?」

 

違うでしょ? あなたは、自分が神様じゃないっていう夢を見ているのよ

 

「僕が神様のわけないじゃないですか」

 

自分と神様を分けて、 月とも、分けて、別々のふりをして、このまま彷徨(さまよ)い続けるの?

 

「もともと別々なんですから」

 

どうして、もともと別々だとわかるの? そんなことわかるのは、神様だけよ。 もともと、を知っているのは、神様だけなんだから

 

「僕は、神様じゃないので、もともとは、知らないですよ」

 

だったら、別々じゃないってことでしょ?

 

「いえ・・・・別々です」

 

それを知っているってことは、あなた、神様ってことよ?

 

「それも・・・・・違います」

 

だから、どうして違うってわかるのよ?

 

「わかりますよ」

 

 両方の手で、女の人の乳房を突っついる男が、神様のわけがないと思うのだ。

 

やっぱり、突っつき方が足りないのよ。 どうして指一本なの? 遠慮(えんりょ)しているの?

 

「指2本にしても、いいんですか?」

 

どうせなら5本にしたら?

 

「それだと、掴(つか)んじゃうことになりますけど?」

 

掴んじゃった方が、理解しやすいんじゃない?

 

「何を理解するんでしょうか?」

 

もちろん、あなたが神様だってことよ

 

「おっぱいを掴(つか)んだからって、そんな理解が得られるとは思えませんけど?」

 

やってもみないで、どうしてわかるの?

 

 やってみなくても、わかるとは思うけど、ただ、やりたい。

 

「やっても、いいんでしょうか?」

 

自分が神様だって、わかるまでやってよ

 

 どう考えても、これは夢だと思う。 幸せ過ぎるからだ。