ホルムズ海峡の問題について、「日本がイランと交渉すれば船は通れるのではないか」という意見があります。一見すると分かりやすい解決策に見えますが、現実はもう少し複雑です。
まず前提として、現在のホルムズ海峡は「物理的に通れること」と「安全に通れること」が別の問題になっています。実際に通過している船もありますが、それは例外的なケースであり、安定した航路とは言えません。
日本の船が安全に通るためには、大きく三つの条件があります。
一つ目は、制裁の問題です。もし通航のために、国際的に制裁対象とされている組織に資金が渡れば、その企業だけでなく、日本の金融機関全体が国際取引から排除される可能性があります。これは一企業の問題ではなく、日本経済全体に関わるリスクです。
二つ目は、保険の問題です。海上で事故が起きた場合、その損害は数百億から数千億円に及ぶことがあります。しかし、制裁対象が関わる航海では、保険会社は補償を引き受けません。つまり、万が一のときに誰も損害をカバーできない状態になります。
三つ目は、金融の問題です。制裁対象への送金は銀行が止めるため、そもそも支払い自体が成立しません。仮に別の方法で支払いができたとしても、その事実が制裁の対象になる可能性があります。
さらに重要なのは、交渉相手の問題です。仮にイラン政府と合意したとしても、実際に海上で影響力を持つのはイラン革命防衛隊です。政府が通行を認めても、現場での安全が保証されるわけではありません。
過去には、外国の船舶が拿捕され、資金問題の交渉材料とされた事例もあります。このような前例を踏まえると、「一度通れたから大丈夫」とは言えません。
また、もし日本だけが個別に交渉して通行を実現した場合、「圧力をかければ譲歩する国」という前例を作る可能性があります。これは将来的に、別の場面でも同じような圧力を受けるリスクにつながります。
加えて、日本のエネルギー供給は湾岸諸国との関係に大きく依存しています。特定の国に過度に接近することは、エネルギー安全保障全体に影響を与える可能性もあります。
こうした複数の要素を踏まえると、「交渉すれば解決する」という考え方だけでは、現実の課題を十分に説明することはできません。
問題は「交渉するかどうか」ではなく、「交渉だけでは解決できない構造がある」という点にあります。
複雑に見える問題ほど、ひとつひとつの条件を丁寧に見ていくことが大切です。その積み重ねが、より現実に近い理解につながります。
