犬の攻撃行動①
自己主張による攻撃行動
まずは、最近多いご相談パターンの例をご紹介しようと思います。
診断:
防御性攻撃行動や所有性攻撃行動から学習された、自己主張性攻撃行動
ご相談内容(例):
犬が苦手なことをしようとすると威嚇・噛みつく
飼主の接近や接触に対して威嚇する
首輪やリードの着脱をさせない など
犬のバックグラウンド(多い例):
若い(相談時期1~3才が多い)
基本的には好奇心が強い
食欲旺盛
人慣れのよい子が多い
子犬の時はとても扱いやすかった
機嫌がいいときはよく甘える など
多いエピソード:
子犬の頃はどこでも触れて、何でもさせて遊び好きだったのに、生後半年前後の頃に、何かをきっかけに唸ったり噛みついたりしたことがあり、そのときに体罰:口(マズル)を掴む、無理やり仰向けにする、鼻をはじく、叩く、蹴るなどをおこない、次第に攻撃場面が増え、攻撃性も高くなった。
雌犬では、ヒート(発情出血)~2ヶ月間の時期に、何かをきっかけに唸る行動があり、これに対して体罰でしつけようとした。
説明:
自己主張性攻撃行動は、自分がされたくないことに対して、それが恐怖を伴うレベルではないことであっても攻撃的動作を用いて回避しようとする場面などに見られる攻撃行動です。
『攻撃(威嚇)してみたら嫌なことを回避できた』という成功から学習して、日常の多くの場面で、意思を通すために威嚇するようになります。
攻撃が悪化するきっかけの一つには、体罰があります。
攻撃行動が出始めた頃に、体罰を用いてしつけるように指導する獣医師・訓練士・トレーナー・ショップ店員・近所の人はまだまだ本っ当に多いのですが、体罰は攻撃行動を悪化させることがほとんどです。
バックグラウンドにあるような、もともと警戒心よりも好奇心が強い子では特に、体罰をうけても「恐怖で攻撃をやめる」よりも「なんで嫌なことすんねん」と立ち向かってくる(攻撃がエスカレートする)傾向もあるようです。そうなったときにさらに「犬に勝たせたらあかん」という謎の指示を信じてしまい力づく合戦を続けると、犬は飼主を信頼しない!という心境になり、自分から要求(遊び・オヤツ・散歩等)のアプローチはするけれど、飼主からのアプローチには「おまえは信用せん!」と威嚇する・咬みつくという『自分勝手』『王様みたいな子』などと形容される攻撃行動が育っていくことになります。
参考:体罰、ダメ、絶対!:『体罰』についての声明@日本獣医動物行動研究会
また、このような攻撃行動が出る犬の飼主さんのタイプとして多く感じるのは、犬がどう感じているかよりも、「○○しないといけない(と言われた)」という真面目さや思い込みが強い人、犬の飼育経験がなくて考えずに他人の言葉を信じてしまった人、かなと思います。
例えば、「犬の足は拭かなければいけない」「犬には反抗させてはいけないから無理やり抑えつけろ」などを犬が嫌がっていても続けようとする、とか。
また、「体罰でしつければよい」という情報に対して、飼主さん本人は「そんなことしたくないのに」と思いながらやっていたというケースがほとんどな気がします。
反対に、攻撃行動が出ない子は、逃げよう・避けようとした時点で飼主さんが「嫌がっとるからやめとこうか?」と犬の心を汲んで回避してくれる、あるいは「嫌がっとるけど美味しいもの食べてる間だけガマンしてな」と犬の不快に釣り合う美味しいものを提案してくれていることが多いかもしれません。
人間の価値観ではなく、犬の価値観で『嫌なこと』を察してやり、『嫌ではない方法』を考えてあげることが必要で、上手くいっていない家庭ではコレを提案するのが、私の仕事のひとつです
また、幼少期から信頼関係がしっかり構築されているほど攻撃行動は出にくいため、フードを使って遊びながら基礎トレーニングをしっかりおこなって育てることは予防としてとても大切です。
体罰については、体罰によって攻撃行動が出なくなる犬も中にはいますが、他人の犬に対して「犬に勝たせてはいけない」「力づくで仰向けにしろ」などとは絶対に言わないでください。
いや、このブログを読んでくださっている人はそんなこと言うはずないと思うのですが
嫌な場面でだけ豹変してしまう
大好きな飼主さんを信頼できなくなるのは、犬にとってもツライことです
普段はちょーかわいくてイイコ♪
治療内容(例):
飼主との関係性の再構築
生活にわかりやすいルールを作る
犬と飼主の生活動線など生活環境の調整
我慢できる心を作る:基礎トレーニングの指導
苦手なことについては丁寧に慣らす:拮抗条件付けや系統的脱感作を用いて
日常の不安や興奮に応じてサプリメントの使用
必要なケース・場面によって興奮を和らげるお薬の使用
などをケースごとに指導・計画していきます
※ご自宅での対応の参考にもなると思います
参考:
※防御性の攻撃行動
犬が自分の身を守るための攻撃行動です。
嫌なことや痛いことが起きたときに咄嗟に噛みつく場合や、嫌なことをされそうだという前兆で威嚇する場合もあります。
具体的には、足拭きや洋服の着脱、シャンプー、ドライヤーなど日常のケアの際にも、逃げたいけど逃げられない体験から攻撃が出るケースはよくあります。
予防としては、嫌なことをしない。逃がしてやる!と攻撃行動は出にくくなります。
※所有性の攻撃行動
犬が「自分のものだ」と思っているものを取り上げられそうになった時に生じる「なに勝手に取ってんねん」という怒りの攻撃行動です。犬は自分が獲得したものは、例えばそれが落ちていたゴミや、飼主の靴下であっても「自分のもの」と思って大切にしています。大切なものを何の断りもなく取り上げられたら人間でも怒りますよね。言葉の通じない犬であればなおさらです。
予防は、犬から無理やり取り上げないこと。日常のしつけの中で『はなせ』や『交換』を教えて育てること、あとは子犬の時期にはお腹いっぱい食べさせてあげることも大事だと考えています。
[参考]
※以上、症例については、あくまで一例です。理解してもらいやすいように多少誇張や簡略化して表現している部分もありますし、1匹ごとに違う背景や別の問題も抱えています。診断には体の病気の関連がないことの鑑別診断も必要です。専門獣医師の診察や、専門家の判断なしに「この犬は○○攻撃行動だ」などということがないようにお願い致します
最後まで読んでいただきありがとうございました
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