今日の函館は、もはや春か⁉︎と思うくらいにあったかい1日でした。
週末はまた冷え込みそうなので、皆さん、風邪などひかないように気をつけましょうね!
さて、今夜も引き続き、私の世界観ブログ【in the Dark】をお送りします。
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#7 崩れた斜塔
ある日の夜。
『ちょっと来なさい』
21時を回り、自分の部屋でくつろいでいた私を呼ぶ母の声は、いつもより一段と低い。
私、今日なにか怒られるようなこと、した?
頭の中で必死に心当たりを探しながら、母の待つ部屋へ向かう。
『話があります。お父さんが…』
母が、湧き上がるあらゆる感情を排除するように、つとめて冷静に話し出したのは、私にとって信じがたい事実。
父が、会社をクビになった。
理由は、経理上の不正をはたらいたこと。
しかも、複数回。
会社の温情で、依願退職という形にはなったようだけど、もちろん退職金が出るはずもなく、実質的なクビには違いない。
父に次の仕事が見つかるまで、母のパートで何とか食いつなぐしかない。
『…なんなの、それ』
高校生の私には十分すぎるショックな話は、しかし、それだけでは終わらなかった。
父はさらに、会社の同僚と、数年前から不倫していたらしい。
『…なんなの、本当に』
状況を理解するまでに、数分を要した私。
不倫なんざ勝手にしやがれって話だけど、仕事をクビってことは、今の生活が成り立たなくなるということなわけで…
『私、学校やめなきゃダメかな?』
通っていた高校は公立の進学校だったから、仮に辞めずに済んだとしても、大学進学への道は、この時点でほぼ閉ざされたも同然だった。
『…てかさ、離婚しないの?』
自分でも驚いたけど、次に私の口からスルッと出てきたのは、その一言。
母の顔色は、いつもと変わらない。
いつも何かに怒っている人なだけに、今とんでもない非常時のはずが、いつも仕事から帰宅した後の不機嫌さと、さほど変わりなく見えた。
一方、生まれつきゆるい私の涙腺は早々に決壊し、同時に、頭の中は煮えたぎっていた。
『これ以上、こんな風に家庭を壊す男と一緒に暮らせんの?あたしは嫌だ!離婚してよ!』
それまで親に気持ちを伝えられなかった反動なのか、いつも日記に書いていたような激しい口調でわめき散らしていた私。
『…あんたの意見だけで決める話じゃない』
母のもっともな反論にも、納得がいかないまま、私は嗚咽を漏らしながら『なんで…』とか『意味わかんない…』などと叫んでいた。
次の瞬間。
『泣いたって仕方ないでしょ‼️』
母の、一際でかい怒鳴り声が響く。
…えっ?
…なんて?
…なんだ、これ?
なんで今、私が怒鳴られるの?
私の気持ち、思わずこぼした本音は、こんな時でさえ、まともに受け止めてはもらえないのか。
そして、二重の意味で家庭をボロボロに壊した最低な父親と、いつまでこの家で一緒に暮らさなければならないのか。
私の人生、これから、どうなるのか…
毎月の学費が自分のバイト代で何とか賄えそうなこと以外は、何も救いになりそうなことが思いつかないまま、塩辛い涙だけが、後からあとから溢れ出た。
〜第8話につづく〜