盲目の女が母探しと仇討の旅に出て辿り着いた先は・・「めくらのお市物語 真赤な流れ鳥」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

TGC 戦うガールズコレクション 2024 より

 

製作:京都映画

配給:松竹

監督:松田定次

脚本:高岩肇 宮川一郎 鈴木生朗

原作:棚下照生

撮影:川崎新太郎

美術:倉橋利韶

音楽:鏑木創

出演:松山容子 荒井千津子 長門勇 多々良純 柳沢真一 天津敏

1969年3月15日公開

 

“めくらのお市”(松山容子)は、やくざに追われている老人仁平(多々良純)を助けたことから、自身の境遇を思い出します。お市は7歳の時、母親が彼女を捨て去った雨の日に、雷の閃光を受けて盲目になりました。その後、お市は弥助(河野秋武)に育てられ、人並みの生活を送ります。

 

ところが、弥助が伝蔵(天津敏)一味に殺されます。お市も亡き者にされようとした時に、浪人の浮田重兵衛(長門勇)に助けられました。浮田はお市に居合い抜きの剣法を教えますが、彼女が自分に想いを寄せていることに気づくと、赤い仕込み杖を残したまま、姿を消してしまいます。その後、お市は母探しと弥助の仇討の旅に出ます。

 

一方、仁平は娘のおよね(北口千春)が引き取られた家を訪ねていき、彼女が借金のかたに女郎にされそうになることを知ります。お市は仁平の事情を知ると、およねの身請けをするため、上州屋の賭場で博奕を打って金を工面しようとします。お市は政五郎親分とサシの勝負を挑み、壺振りをしていたお文(荒井千津子)のイカサマを見破ったため、政五郎は大恥を掻かされます。

 

その頃、仁平はおよねの監禁された土蔵に忍びこみましたが、仁平を待ち受けていた伝蔵におよねともども惨殺されます。伝蔵は、かつて仁平、弥助と街道を荒し回った盗賊で、二人を裏切り、奪った金を独り占めにして富を築き、豪商の庄平衛として成り済ましていました。伝蔵は旧悪の露見することを怖れ、弥助と仁平を殺したのでした。同じ頃、お市は政五郎の女房お浜(富永美沙子)に、賭場で稼いだ金を積み、およねを買い戻そうとするのですが・・・。

 

現在ならば、題名だけで地上波のテレビで放映するのは無理でしょうが、ちょっとした言葉遣いで多くの人の目に触れないのは勿体ない気がします。

 

主演の松山容子は、ボンカレーの看板や大信田礼子と組んだ「旅がらすくれないお仙」が、子供の頃の印象として強く残っています。勿論、テレビ版の「めくらのお市」も見ていた筈なのですが、今回劇場版を観て、お市が意外と勇み肌な様子を見せるので、子供の頃の記憶との違いに戸惑いもしました。

 

本作はてっきり松山容子の殺陣が見ものの時代劇と思っていましたら、親子のドラマに結構見応えがあって、これは嬉しい誤算でした。お市が母親のお浜に捨てられた話と、仁平が已むにやまれず娘のおよねを置き去りにせねばならなかった話が合わせ鏡の関係になっていて、終盤に二つの話が重ね合わさる構成に唸らされました。

 

特におよねを身請けするために工面した金を、お市が実の母親と知らずにお浜に渡す場面は圧巻と言える演出でした。お市の話を聞いていくうちに、お浜が目の前にいる盲目の女を実の娘と気づいて行く一方で、お市は最後まで母親と気づかずにいる事が切なさを増します。また、せっかくお市が身請けの金を用意できたにも関わらず、父と娘が伝蔵に殺されるくだりも、徒労感と空しさがあって悲劇性を強めています。

 

お市を陰ながら補佐する浮田重兵衛を演じる長門がまたいい味を出していて、母親と名乗り出ようとするお浜を「知らぬほうが良いときもある」とばかりに押し留めようとする演出は、長門の持つ優しさと相まって情感溢れる場面となっていました。また、松山は序盤の長回しの場面では、瞬きひとつせずに台詞を喋ることによって、盲目であることを強調しており、プロの女優魂を感じさせました。