風俗嬢と女衒によるユーモアとペーソスが滲み出る「トルコ110番 悶絶くらげ」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

「ORGASM」的偏愛ロマンポルノ より

 

製作:日活

監督:近藤幸彦

脚本:荒井晴彦

原作:木谷恭介

撮影:畠中照夫

美術:坂口武玄

出演:原悦子 片桐夕子 吉沢由紀 星野暁一 益富信孝

         藤野弘 玉井謙介 千葉繁 梨沙ゆり 森みどり

1978年11月18日公開

 

やくざになり切れない三浦牧夫(星野暁一)は、吉原の風俗街で女衒のような商売をしています。彼は高倉健の「唐獅子牡丹」がお気に入りで、いつもその歌を口ずさんでいるか、スナック店内にあるジュークボックスでその曲を流しています。

 

ある日、三浦は関西から上京した若いアベックのチヨマ(原悦子)と則夫(藤野弘)に出会います。チヨマはトルコ風呂で3年間だけ辛抱して働き、自分たちの店を持つという夢をもっていました。三浦はチヨマを吉原の店に斡旋し、則夫を住込みのボイラーマン見習いとして働かせます。

 

暫くして三浦は、同業者に沖縄からやってきた由起(吉沢由起)を紹介され、その夜、由起は三浦に処女を捧げるのでした。ところが、三浦は由起がこの街で縄張りを持つ青葉会の島谷(益富信孝)の絡む女と知ります。三浦は由起が島谷に覚醒剤漬けにされ、トルコ風呂で働かされることを知りながら、女から手を引かざるを得ませんでした。

 

その島谷はトルコ風呂で売れっ子になっていたチヨマの常連客でもありました。チヨマの恋人の則夫は、島谷がチヨマに惚れこんでいるのを知り、自分の身を心配してチヨマから離れようとします。三浦はチヨマからそのことで相談を受け、則夫を猛然と殴りつけます。三浦も知らぬうちにチヨマに好意を抱いた上での則夫への鉄拳制裁でした。

 

ところが、則夫は三浦がチヨマに惚れていることを島谷に告げ口したために、三浦は徹底的に痛めつけられてしまいます。その場にいたチヨマは、三浦の目の前で彼の想いを断ち切るかのように、島谷とのセックスにのめりこんでいくのでした。肉体も精神もボロボロになった三浦がアパートに戻ると、そこには覚醒剤で体を痛め痩せ細った由起がいました・・・。

 

日活ロマンポルノはそれなりに観ているつもりですが、スクリーンの中で未だにお目にかかれない女優も幾人かいます。原悦子もそのうちの一人で、この特集が組まれた際には、本作だけは見逃さないようにスケジュール調整を行ないました。

 

その原悦子は関西弁を喋る女の子役で、しかも17歳という設定。映画公開当時では風俗の世界に入るのは、18歳未満では完全にOUTだった筈(吉原は最近まで20歳未満はダメだったけど、法律改正で18歳からになったのかな?金津園は昔から18歳でも大丈夫だったような・・・)。それでも、どの世界にも裏の道はあるやろと三浦に交渉して、目出度く?店に採用されます。一緒に上京してきた恋人が居ながら、二人で店を出すために、3年間我慢して体を売ることを割り切っています。

 

この映画は勿論彼女主演の映画に違いないのですが、スカウト兼客引きの三浦の役割も少なくありません。三浦は地方から上京した女の子を吉原の店に紹介することで手数料を得ている反面、女の子には風俗業に入ることに注意喚起を行なった上で、それでもこの道に入りたい女の子に店を斡旋しています。胡散臭いながらも良心的な商売をしており、そのおかげなのか、風俗嬢からの信頼は厚く、チヨマや由起から好意を持たれます。

 

ところが、地回りのやくざの島谷がチヨマに惚れたことから、それまで島谷との友好関係を築いてきた三浦の立場までも危うくなります。三浦は高倉健の「唐獅子牡丹」を愛聴し、その歌を心の拠り所にしています。トルコ嬢の屯する店のジュークボックスで、常に健さんの歌をかけていることからも分かります。この歌が小道具として効いており、島谷によって歌が差し替えられたことで、三浦に絶望感をもたらし、チヨマとのすれ違いのメロドラマも生まれます。

 

この映画は風俗街を舞台にしているだけあって、当時のトルコ風呂事情に関して色々な面で勉強になります。先輩トルコ嬢の片桐夕子が講師として、新人の原悦子にマットプレイを講習する場面だけでも元が取れる上に、70年代のトルコ風呂に関して疑問に思っていたことの答えまで用意してくれます。

 

現在のマットプレイはローションを使ってサーヴィスをしていますが、70年代の映画では泡塗れで客と接する描写がしばしば見られます。肌と肌が触れあい、手で触ることはあっても、舐めるまでに至ったのか常々疑問に思っていました。この講習の場面では、一旦泡を洗い落としてから、泡のなくなった部分を舐めていて、漸く長年の疑問が解けました(笑)。でも、実際どうだったのかは知りませんよ。

 

それはともかく、夜の吉原の風景や、それとは対照的な浅草の風景が入り交じることによって、70年代の空気感が伝わると同時に、日常の景色は映像資料としても付加価値があります。

 

チヨマ役の原悦子と三浦役の星野暁一の他に、薫役の片桐夕子、島谷役の益富信孝にもそれぞれ見せ場が用意されています。片桐はトルコ風呂に来た童貞に優しく手ほどきをする役が嵌っていて、手取り足取り教えるばかりでなく、男に自信をつけさせるのが好感を抱かせます。原悦子も気さくな接客ぶりが良いのですが、筆下ろしに関しては片桐夕子にお任せしたいと思わせる安心感が備わっています。薫はチヨマに稼いだ金をヒモに搾り取られないよう忠告するにも関わらず、彼女自身ロクデナシのヒモに貢いでいるのが哀れを誘います。

 

一方、島谷役の益富信孝もなかなかのワルです。風俗嬢をシャブ漬けにして、風俗業から足を洗わせないよう細工を施すのも然ることながら、前述したように三浦から「唐獅子牡丹」を取り上げることで、心が折れるようなことを平気で行ないます。そうかと思うと、チヨマの常連客となった際に、彼女からイチモツの小ささを仄めかされ、真珠を使って水増ししようとする姑息さも窺えて笑えます。

 

ヤッさんが男性器に真珠を入れる話はよく聞きますが、あれって効果があるのでしょうか?男にとっては痛いだけですし、風俗嬢からも快感どころか痛いと聞かされていて、あくまで幻想と捉えたほうがよろしいのでは。だいぶ話が逸れてしまいましたが、風俗業界に関わる人間模様を描いた映画に相応しく、裏のドロドロとした実態や、風俗嬢の悲哀を垣間見ることもできて、結構面白い映画でしたよ。