犬使いの男の数奇な人生 「DOGMAN ドッグマン」を観て | パンクフロイドのブログ

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DOGMAN ドッグマン 公式サイト

 

チラシより

ある夜、警察に止められた一台のトラック。運転席には負傷し、女装をした男。荷台には十数匹の犬。“ドッグマン”と呼ばれるその男は、半生を語り始めた----。犬小屋で育てられ暴力が全てだった少年時代。犬たちの愛に何度も助けられてきた男は、絶望的な人生を受け入れて生きていくため、犯罪に手を染めてゆくが、“死刑執行人”と呼ばれるギャングに目を付けられ----。

 

製作:フランス

監督・脚本:リュック・ベッソン

撮影:コリン・ワンダースマン

美術:ユーグ・ティサンディエ

音楽:エリック・セラ

出演:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ ジョージョー・T・ギップス

        クリストファー・デナム クレーメンス・シック

2024年3月8日公開

 

謎めいた出だしから、主人公の口を借りて、徐々に真相が明らかになっていく展開は、小林正樹の「切腹」を始め、いくつもそうした系譜の作品があります。この映画も同じように主人公のダグラスが、どのような容疑で拘束されているのかは、終盤になるまで明かされません。尤も、序盤で犯罪の原因らしき描写を匂わせてもいるので、観客もおそらくギャングのみかじめ料を巡るトラブルの件であることは、容易に推測できます。

 

ダグラスを取り調べるのは刑事ではなく、精神科医のエヴリンになった経緯はよく分かりませんが、エヴリンがシングルマザーでいること、離婚した元夫が接見禁止令を受けていることを考えると、彼女もまた暴力による痛みを経験した女性であることが想像でき、ダグラスを理解するにはうってつけの人物であることは伝わってきます。

 

ダグラスは父親から虐待を受け、兄は弟のことを告げ口して父親に取り入ることで難を逃れ、母親は身籠ったことで家出をすると言った具合に、彼の周囲には頼るのは犬しか居ません。彼は犬の力を借りて警察に保護され、養護施設に入られます。その後、紆余曲折を経て、ドッグシェルターを運営します。ところが自治体の財政の逼迫を受け、支援が止められたために、犯罪に手を染めねばならなくなります。

 

「ドーベルマン・ギャング」は未見ですが、要はダグラスが犬を使って金持ちの家から宝石類を強奪するもの。ダグラスは様々な種類の犬を飼いながら、その犬の特性に合わせた役割を与えています。それは盗みにも人間への襲撃にも発揮されていて、犬たちの連携プレイがこの映画の見どころのひとつともなっています。

 

ダグラスは犬による犯罪を実行する傍ら、ドラァグクィーンのショーにも週1回出演しています。それはあくまで副職に過ぎないのですが、彼にとっては自己を解放する意味もあって、欠かせない仕事となっています。ダグラスは父親から銃で撃たれた後遺症から、車椅子の生活を強いられています。ただし、全く立てない状態という訳ではなく、ショーのデビューの際には、立ったまま必死に耐えて、エディット・ピアフの歌を最後まで歌い切っています。

 

ある意味、車椅子はダグラスにとっては自己防御を象徴するものであり、自らの力で立って歩くことが、過去のトラウマから脱却したことを意味します。ラスト近くの彼の行動がそれに当てはまるかどうかは定かではありませんが、少なくとも彼の表情からは解放感が伝わってきました。