撮影中に失踪した俳優が22年後に・・・「瞳をとじて」を観て | パンクフロイドのブログ

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瞳をとじて 公式サイト

 

映画.comより

映画監督ミゲルがメガホンをとる映画「別れのまなざし」の撮影中に、主演俳優フリオ・アレナスが突然の失踪を遂げた。それから22年が過ぎたある日、ミゲルのもとに、かつての人気俳優失踪事件の謎を追うテレビ番組から出演依頼が舞い込む。取材への協力を決めたミゲルは、親友でもあったフリオと過ごした青春時代や自らの半生を追想していく。そして番組終了後、フリオに似た男が海辺の施設にいるとの情報が寄せられ……。

 

製作:スペイン

監督:ビクトル・エリセ

脚本:ミシェル・ガスタンビデ ビクトル・エリセ

撮影:バレンティン・アルバレス

美術:クール・ガラバル

音楽:フェデリコ・フシド

出演:マノロ・ソロ ホセ・コロナド アナ・トレント ペトラ・マルティネス

2024年2月9日公開

 

ほぼ10年ごとに映画を撮ってきたビクトル・エリセは寡作な映画監督です。それにしても、さすがに30年以上待たせるのはどうよ?と文句のひとつも言いたくなります。それほど、新作を待ち焦がれていたと言えます。文句ついでに、タイトルの「瞳をとじて」という邦題も些か違和感があります。ユーミンや平井堅など楽曲のタイトルにもよく目にしますが、目を瞑るという意味で使うならば、目を閉じて、あるいは瞼を閉じてが妥当なのでは?

 

それはともかく、久しぶりのビクトル・エリセの新作は、現在進行形のドラマが、フリオが撮影中に失踪した「別れのまなざし」のみならず、エリセ自身の過去作とも連動・融和するため、エリセの映画の集大成のような感じになっています。父親が失踪する点では「エル・スール」を思い起こさせ、娘役を「ミツバチのささやき」のアナ・トレントが演じているのも感慨深いです。

 

フリオの失踪によって、彼と関わっていた人々のその後の人生がふとした弾みに垣間見えるのも、エリセの慎ましやかな演出と相まって心に沁みてきます。登場人物のそれぞれのまなざしが印象的で、一人だけの顔のアップや二人が並び合う構図は勿論のこと、相手と向き合う場合でもカメラの切り返しによって常に作中の人物が観客を見つめる形になっています。その描写が同時に、ミゲル、アナ、フリオ等が自身の人生を向き合うことも意味しています。

 

撮影中に失踪したフリオがその後どうなったのかは、ここでは敢えて触れないでおきます。ただ、どんな状況でも明確な答えを示さずに、俳優の表情を読み取ることで後は察してくれよとばかりに、観客に想像を委ねるエリセ流の演出が心地良く感じられます。その意味では、行間を読み余韻を楽しむ映画かもしれません。30年以上待った甲斐はありました。