堅気になった元やくざが弟の不始末を帳消しにしようとするが・・・「野獣の復活」を観て | パンクフロイドのブログ

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ともに苦難を乗り越えよう!

シネマヴェーラ渋谷

ニッポン・ノワールⅢ より

 

製作:東宝

監督:山本迪夫

脚本:小川英 武末勝

撮影:内海正治

美術:本多好文

音楽:小杉太一郎

出演:三橋達也 黒沢年男 三田佳子 睦五郎 北川美佳

         浜田寅彦 大滝秀治 佐原健二 高品格

1969年12月6日公開

 

伊吹一郎(三橋達也)は、やくざの世界から足を洗って、現在は地方の港町で、刑務所以来の仲間である曽根(睦五郎)と商社を経営しています。伊吹はクラブのママの美樹(三田佳子)と婚約しており、間もなく結婚する予定でした。

 

そんなある日、かつて所属していた組織の塚本(大滝秀治)から、電話がかかってきます。塚本は伊吹の弟の次郎(黒沢年男)が現れたら連絡をくれと言い、理由も話さずに電話を切ってしまいます。伊吹が自宅に戻ると、恋人のエミ(北川美佳)を連れた次郎が現れます。

 

彼は塚本から裏切り者の菊井(太刀川寛)を殺すよう命じられましたが、鉄砲玉にされたのに嫌気が差して逃げてきたのでした。伊吹は一旦弟をつき放してみたものの、エミのお腹に子供がいることから、二人を海外に逃亡させようとします。しかし、塚本の組織に先手を打たれ、誰も密入国を引き受けようとはしません。

 

手詰まりになった伊吹は、現在は極東エンタープライズの会長となっている塚本のもとへ単身話をつけにいきます。彼は次郎の代わりに、大阪の香田組に警護された菊井を始末することで、次郎の逃亡を不問にしようとします。伊吹はパーティー会場に潜入し、トイレに用を足しに来た菊井を仕留めます。

 

ところが、伊吹が塚本に報告に行くと、塚本は既に配下の者が次郎を連れ戻しに行っていると告げます。伊吹は自宅に電話をして、次郎とエミを警護する曽根に連絡しようとしますが、電話が繋がりません。伊吹は急いで自宅に戻るのですが・・・。

 

本作はやくざの世界に居た男が、出所後に堅気となって堅実な生活を築いていたのに、愚弟の不始末から再びやくざの仕事を請け負う羽目になるという、手垢のついた話ではあります。ただし、最後まで飽きさせないのは、細部にまで行き届いた丁寧な演出が施されており、それに見合うだけの役者の芝居が見られるからです。

 

主人公を演じる三橋達也は、よく言えば抑制の効いた芝居、悪く言えば硬い芝居なのですが、彼の片腕となって働く睦五郎のキャラクターの渋さが胸に響いてきます。睦の演じる曽根は気遣いのできる秘書として有能であり、同時に忌憚のない意見を述べられる友人でもあり、伊吹とは強固な信頼関係を築けています。

 

二人は刑務所で同房だった関係で、出所後も一緒に行動を共にしています。その刑務所の中で、曽根は鉄格子の窓にとまる雀に残った飯粒を与える習慣を続けていて、彼が入院で留守にしていた間、代わりに伊吹が与えていたことがきっかけで親しくなった経緯があります。

 

曽根が分を弁えた男なのに対し、伊吹の弟の次郎の駄目っぷりが余計に目立ってしまいます。次郎は塚本から殺しの依頼を受けたものの、殺しの対象である菊井のガードが固く、警護する香田組の者に返り討ちされそうになるのを察知し、恋人のエミと共に逃亡し兄貴に匿ってくれと泣きついたヘタレです。

 

伊吹は最初弟を突き放したものの、エミが妊娠していること、彼女が殺しをやめるよう頼んだことを聞かされると、無碍にもできなくなります。ちなみにエミを演じた喜多川美佳は三船敏郎とは内縁関係にあり、彼との間に生まれた娘が三船美佳ですね。

 

伊吹は次郎の仕事を代わりに引き受けることで、弟へのお咎めは無しにしようとします。ところが、塚本は警察の手が回ったら次郎と一緒に自首するよう匂わせた上で、もう一度自分の手足となって働いてくれれば考え直さぬでもないことを仄めかします。

 

塚本は裏日本進出への足掛かりに、伊吹の地元を拠点にしたいと思っており、彼の弟の次郎をヒットマンに命じたのも、いずれ伊吹を再びやくざの世界に引き込み、彼の経営するI.S.商会を利用できると踏んだからです。伊吹は塚本の下で働くことを拒否しますが、塚本は既に配下の者が次郎を連れ戻しに行っていると告げます。塚本役の大滝秀治は狡猾な悪党を実に憎々しく演じています。

 

伊吹は急いで浜湊の自宅に戻りますが、そこには次郎、エミ、曽根の無惨な死体が残されていました。彼は自宅に火を放ち事故死に見せかける工作をした後、クラブ「ミキ」のママで許婚でもある美樹と一夜を過ごします。伊吹は美樹を介して顔なじみの大石部長刑事から、三人を殺した実行犯の手掛かりを得ようとします。

 

浜田寅彦の演じた大石役は、小さいながらもかなりの儲け役と言えます。大石は伊吹から常日頃袖の下を受け取る代わりに彼の眼についた情報を流す刑事で、世間的にはモラルを欠いた灰色の警察官と言うことになります。そんな大石は美樹に情報を与えた上で、彼女の差し出す封筒に入っている金を、「生きた死人の銭は受け取らん、仏さんに伝えておいてくれ」と突き返します。大石が暗に伊吹は事故死に見せかけただけで、実際は生きていることが分っていると仄めかす腹芸にニヤリとさせられました。

 

塚本に近づくのが難しい状況で、伊吹が如何に悪党を仕留めようとするかは映画を観てのお楽しみ。一点だけ付け加えておくと、香田組の吉野(今井健二)を引き込む辺りが巧みでした。伊吹によって菊井が殺されたことで、吉野としては組の利益も面子も潰された形。でも、命令を下したのはあくまで塚本であり、敵の敵は味方ということで両者には共通の利益があります。

 

ただし、事を終えた後に、吉野が伊吹を襲撃するのは蛇足に思えました。犯罪映画を理詰めで描くのが得意な東宝にしては、最後の詰めが甘かったのが惜しまれます。